ダンジョン25階に放置された「破れない盾の台頭」

@MayonakaTsuki

プロローグ


朝の風は、王国の狭い路地を駆け抜け、清涼感と共に、どこか不安の重さまでも運んでいるかのようだった。

太陽はまだ地平線と散らばる雲の間で迷っており、黄金色の光を放ち、家々の壁を一瞬の輝きで染めていた。


ヘイデン・クロスは、使い古したブーツで冷たい石畳を踏みしめながら、マントのフードを整えた。

足音は軽く響くだけで、呼吸は静かだが、心臓は激しく打っていた――今日が他の日とは違うことを予感しているかのように。


彼は、妹のレイラと暮らす質素な家の前で立ち止まった。

石と木で作られた家は控えめだったが、そこには笑い声や陽光に満ちた日々の思い出が刻まれていた。

ドアを開けると、かすかな軋みの音と共に、焼きたてのパンの香りが漂い、壁に掛けられた乾燥ハーブの香りと混ざり合った。


レイラは台所に立ち、栗色の髪をポニーテールにまとめ、細い肩にかかる髪がゆらりと揺れている。

彼女は温かい紅茶のカップを握り、目には恐れと希望が入り混じった光が宿っていた。


「ヘイデン…今日、本当に行くの?」

声は小さく、しかし心配で震えている。


「うん」

彼はひざまずき、妹と目線を合わせた。

「でも、すぐに戻ると約束する」


手を差し伸べ、妹の繊細な顔を撫でた後、額にキスをして別れを告げる。

レイラは目を閉じ、彼の存在を一秒でも記憶に刻むかのように、その瞬間を吸い込んだ。


「気をつけてね…お願い」

深呼吸をし、声を強く保とうとするが、わずかな震えが不安を物語っていた。

「何かあったら…いやよ」


ヘイデンは微笑み、内にある焦燥を隠す。

ダンジョンが遊び場でないことはよく知っていた。

階ごとに生死を賭けた戦いがあり、廊下ごとに運命が試される。

しかし選択肢はなかった。妹の治療は高額で、どの任務も彼女の命を救う機会だった。

ひょっとすると、ダンジョンの暗い隅に、妹を完全に治す力が潜んでいるかもしれない。


「大丈夫だ、レイラ」

彼は立ち上がり、決然とした声で言った。

「必要なことは全てやる。うまくいけば、気づく前に戻ってくる」


レイラはため息をつき、淡い笑みを浮かべた。

「ただ…忘れないで、戻ってくること」


最後に手を振り、ヘイデンは家を離れた。

肩にのしかかる責任の重さは、これから担う盾の重さに匹敵する。


王国の通りは、少しずつ活気を帯び始めていた。

商人は露店を開き、子供たちは行き交う人々の間を駆け回る。

パンや果物、ハーブの香りが混ざり合う空気の中、彼の一歩一歩は注目の的だった。

多くの人々は、この地で知られる若きタンクを見かけ、敬意を払って目を向ける。


「ヘイデン、ダンジョンでは気をつけろ!」

赤く光るリンゴを手にした老人が声をかけた。

「大したものじゃないが、これを持って行け」


「ありがとうございます、先生。気をつけます」

ヘイデンはリンゴを受け取り、しっかりとした手触りと甘い香りを感じた。

小さな贈り物だが、心からの気遣いが込められていた。


さらに進むと、金属の工具の音が聞こえ、鍛冶屋へと導かれる。

逞しい腕とたくましい手を持つ男が、彼を待っていた。


「盾を調整したぞ、少年」

光る盾を手渡しながら、鍛冶屋は言った。

「これでよりダメージに強くなり、1分間だけ防御のバリアも出せる。賢く使え」


ヘイデンは冷たい金属に触れ、盾の力を感じる。

「必ず」


その先では、年配の女性がハーブやポーションを売っていた。

彼女は微笑み、優しいがどこか悲しげな目で見つめる。


「妹のことはどうだい、少年?」

柔らかい声で問いかける。

「母が生きていた頃を覚えているよ…困難な時も、幸せだった」

小さな輝く杯を彼に手渡す。

「これは自分の分身を作り、モンスターをひきつけるんだ。長くはもたないが、命を救える。息子にダンジョンで迷子になる前に渡したかったんだ…」


ヘイデンは感謝の意を込めて頷き、心からの思いを受け取る。

物だけでなく、彼らの希望と祈りが込められていることを感じた。


「みんな、さようなら」

慣れ親しんだ顔に暖かく別れを告げ、通りを進む。

やがてギルドに到着した。


明るい石造りの建物に大きな窓が朝の光を反射する。

入り口には冒険者たちが集まり、それぞれが栄光、傷跡、喪失の物語を抱えていた。

ヘイデンは深く息を吸い、暖かな空気と絶え間ない活気に包まれながら中へ入った。


内部の広間は賑やかで、剣を研ぐ金属音、冒険者たちのざわめき、石造りの廊下に反響する足音が混ざり合っていた。

一人ひとりの顔には物語が刻まれ、傷跡や視線には過去の戦闘の記憶が宿っている。

ヘイデンはその空間の重みを感じた――勇気と弱さがほとんど触れられるほど混ざり合う場所。


彼は深呼吸をして、しっかりとした足取りでギルドマスターのカウンターへ向かった。

空気は羊皮紙、革、鎧の油の匂いで満ちており、ここが単なる避難所ではなく、絶え間ない試練の場であることを告げていた。


「こんにちは、マスター」

ヘイデンは堅実な声で言った、傲慢さはない。

「今日、冒険者を必要としているチームはありますか?」


女性はカウンター越しに顔を上げ、注意深く彼を見つめた。

まるで、彼が背負う盾の重みや、静かに輝く決意の眼差しの奥まで見通せるかのように。


「赤いガルシャ隊ね」

彼女は軽く身をかがめ、答えた。

「今日は大きな計画を立てているわ。同行すれば、誰にとっても人生を変えるほどの報酬がある。でもヘイデン…気をつけて。彼らと出発した多くは戻らなかった。そして戻った者も…もう以前の彼らではない」


ヘイデンは落ち着いてうなずく。

「大丈夫です。自分の仕事を果たすだけです」


女性は複雑な笑みを浮かべた――尊敬と心配が入り混じる微笑。

「なら、行きなさい。でも覚えておいて:賢く選ぶこと」


チームに近づくと、ヘイデンは未来の仲間たちをよりよく観察できた。

それぞれに独特のオーラがあり、能力と性格を反映している。


ガレス・ヴォルン、リーダーは堂々とした立ち姿で、肩幅も広く威圧感を放つ。

その一挙手一投足から権威と計算された冷たさが滲んでいた。


セレン・ヴァレン、魔法使いはすべての動きを注意深く観察し、口を開く前に確率とリスクを計算する。


ケイル・ドレイヴン、盗賊兼追跡者は危険なダンジョンに挑む者としてはあまりにリラックスした様子。

皮肉な笑みの裏には、誰も想像できないほどの生存本能が隠れている。


そしてエイラ・ソレン、ヒーラーは穏やかで落ち着いた存在感を持つが、その瞳には痛みと死を見てきた経験が刻まれており、ダンジョンを軽視することはなかった。


「ヘイデン、怖がるな」

ガレスがしっかりとした声で言った。

「重い荷物を運び、チームを守る者が必要だ。君はぴったりだ」


「承知しました」

ヘイデンは盾を調整し、肩にかかる補給袋の重さを感じた。

一歩一歩を計算し、無駄な力を使わぬよう慎重に動く。


チームは装備を整え、ポーションや武器、補給品を分配した。

最初に口を開いたのはセレンで、刃のように鋭い声で言った:


「ヘイデン、理解していると思うけど、私たちの成功は細部にかかっている。失敗は許されない」


「信頼しています」

ヘイデンは冷静に答え、服従するようには見えず、つながりを築こうとした。


ケイルが一歩前に出て、壁に軽く寄りかかる。

「盾は君の役目だが、知恵と戦略は皆のもの。倒れるときは皆で倒れる」

皮肉と真実が混じった口調で告げた。


エイラはヘイデンの腕にそっと手を置いた。

「何が起きても、ヘイデン、力は盾だけじゃない。心にもある。自分も守るのよ」


ヘイデンはうなずき、言葉を受け止めた。

彼は誰も持ちたがらない重荷として支えることに慣れていた。

しかしこのチームでは、一つ一つの言葉や仕草が、握る盾と同じくらい重く感じられた。


「行くぞ」

ガレスの声が緊張を切り裂く。

「早ければ早いほどいい」


ギルドを出ると、期待と不安が入り混じった空気に包まれた。

通りは活気づき、商人や子供たちがチームの進行を見守る。

好奇心と憧れの視線がヘイデンに向けられたが、彼は前方の道に集中した。


ダンジョンの入口へ向かう道中、メンバーたちは待ち受ける冒険について話し始めた。

セレンは地図と巻物を確認し、モンスターや障害物の計算をつぶやく。

ケイルは侵入経路や近道を指摘し、エイラはポーションや治癒アイテムをチェックした。


「長い道のりになりそうだ」

ヘイデンは盾の重さを調整しながらつぶやく。

「皆、準備はできているだろうか」


「準備?」

ケイルは軽く笑いながら返す。

「待ち受けるものに本当に備えている者はいない。でも生き残れないわけじゃない」


ガレスが真剣に口を挟む。

「生き残るだけでは不十分だ。利益を得るんだ。金、財宝…一歩の失敗が命取りになる」


緊張が徐々に染み渡る。

すべての判断が信頼と耐久の小さな試験のようだった。

ヘイデンはダンジョン自体が誰が値するかを試すかのような、危険の予感を感じた。


ついにダンジョンの入口に到着すると、湿った冷気と濡れた石の匂いがチームを包む。

沈黙が支配し、足音だけが反響する。

ヘイデンは盾を調整し、物理的な重さだけでなく、心の重さも感じる。

彼はチームの盾であり、どんな攻撃も受け止める壁だった。


「覚えておけ」

彼は固く言った。

「私は皆を守る。だが、各自が自分の役割を果たすこと」


「それ以外は期待していない」

ガレスは目に届かぬ半笑みで応えた。


こうして、彼らは暗く狭いダンジョンの廊下を一歩ずつ進む。

足音は緊張の一定のリズムとなり、影や細部、風のそよぎが今後を予告しているかのようだった。


ヘイデンは恐怖と決意が入り混じる感情を抱いた。

何が待ち受けているか正確には分からない。

ただ一つ確かなことは――失敗できないということ。

外で待つ妹のため、信頼してくれる仲間の目のために。


廊下が奥へと続くにつれ、この冒険が今までと違うものであるという感覚が強まった。

まるでダンジョン自体が生きており、静かに進む若きタンク、ヘイデン・クロスの一歩一歩を見つめているかのようだった。


ダンジョンの静けさはほとんど絶対的で、冷たい石に落ちる水滴の遠い響きや、錆びた鎖の軋む音だけが時折空間を切り裂いていた。

ヘイデン・クロスの一歩一歩が狭い通路に反響し、肩にのしかかる盾の重みが彼の役割を常に思い出させる――守り、支え、耐えること。


進むにつれて、消耗の兆候が明確になっていった。ポーションはより頻繁に使われ、魔法使いのセレン・ヴァレンのマナは揺らぎ始める。普段自信満々のケイル・ドレイヴンも、簡単に越えられたはずの障害物の前で眉をひそめ、沈黙して歩く。ヒーラーのエイラ・ソレンは、ヘイデンの一挙手一投足を測るかのように目を離さず、彼の若いタンクの顔に流れる汗までを観察していた。


「補給が少なくなってきています」

エイラが低くつぶやく。石を踏む音に混ざるかすかな声。

「悪化する前に戻ることを考えるべきかもしれません」


しかしガレス・ヴォルンは動じない。

「戻れない」

力強く答える。

「今戻れば、これまで進めたものすべてを失うことになる。人生を変えるほどの黄金は、まだ先にある」


ヘイデンは盾に手をかけ、冷たい金属を感じる。心臓は早鐘のように打ち、警戒と苛立ちが入り混じる。

体のすべてが退くよう命じていたが、退くことはできない。欲望に目をくらませ、全員を危険に晒すわけにはいかなかった。


ダンジョンの通路は次第に狭くなり、自然光や魔法による照明も弱まる。影が生き物のように動き、ヘイデンはダンジョンが自分たちの行動や選択を見守っているかのように感じ始めた。


「この落ちそうな石には注意を」

ケイルが狭い隙間を跳び越えながらつぶやく。

「ここで転んだら…何が起きるか知りたくはない」


セレンは明らかに苛立ち、声を鋭く響かせる。

「怖がっている暇はない!一歩の無駄は黄金の損失よ!」


「今は欲張る時じゃない」

エイラが落ち着いた声で、しかし毅然と返す。

「生き延びて25階にたどり着くことが最優先」


「黙れ!」

ガレスが割り込み、疑問を許さぬ権威ある口調で命じる。

「私が言った通りに進む。全員が役割を果たせ。疲れていようが構わない、続けるんだ」


ヘイデンは苛立ちと恐怖の痛みを感じる。

仲間たちの力を知っているが、限界も理解していた。

このまま進めば、脅威はダンジョンのモンスターだけでなく、自らの軽率な判断も加わる。


22階で小型モンスターの群れが通路を塞ぐ。

黒い鱗に覆われ、光る目を持つ生物たちが鋭い爪を振りかざし迫る。

ヘイデンは盾を掲げ、防御の最前線となる。

仲間たちは後方から攻撃する。

盾に当たる衝撃が体中に響き、責任の重さを痛感させる。退くわけにはいかない。たった一歩の誤りが誰かの命を奪うかもしれない。


「ヘイデン、守って!」

エイラが負傷者を癒すバリアを展開しながら叫ぶ。


時間が長く感じられる。ヘイデンは不屈の柱のように動き、攻撃を受け止め、通路を導く。

全員の荒い呼吸、武器の軋み、鎧の鳴る音が周囲に響く。

一瞬一瞬が、さらなる危険を予告しているかのように長く引き延ばされる。


ついに通過するが、犠牲はあった。補給の一部が消費され、ポーションも減り、セレンのマナはほとんど尽きかけていた。

チームは疲れ切り、緊張していた。

ヘイデンは盾の重さだけでなく、もし何かが起これば全員が自分を頼るという責任の重みを感じていた。


24階に到達した時、疲労は明白だった。

ガレスは腕を組み、不満げに言う。

「資源の消耗が激しい。このままでは30階に到達しても何も残らない」


セレンは目を剥き、ガレスの不平に苛立ちを隠せない。

「ただ文句を言うより、効率的に行動すべき時かもね」

冷たい声で告げる。


エイラは不安そうにヘイデンを見つめる。

「進むべき?それとも戻る?」

ほとんどささやくように尋ねる。


ヘイデンは胃の奥に結び目を感じる。

「戻るべきだ!」

毅然と答える。

「次の階層を攻略する資源は十分にない!」


しかしガレスは聞き入れない。

「今戻るわけにはいかない」

決意を込めた声で言う。

「黄金が待っている」


セレンは手を大きく動かし、エイラを制止する。

「黙って!」

エイラが反論する前に、彼女は顔を叩いた。

その冷酷さにヘイデンは衝撃を受ける。


若きタンクは体中に不快感が広がるのを感じた。

何かが間違っている。

信頼していたグループへの信頼が揺らぎ始める。

ダンジョンだけでなく、人間の欲望とプライドが、モンスターと同じくらい脅威になることを悟る。


「これでいいのか…」

ヘイデンは小声でつぶやき、盾を調整しながら冷静を保とうとする。

「でも、今は退けない…」


進むにつれ、空気はより重く、濃密になり、まるでダンジョン自身が試しているかのようだった。

影は疑わしく動き、音は通常より大きく反響する。

ヘイデンは最悪の事態がまだ訪れていないことを予感した。


25階へ続く通路に到達すると、空気は劇的に変化した。

冷気が肩をすくめさせ、濡れた石の匂いと、正体の分からない何かの匂いが皮膚を震わせる。

振り返ると、仲間の顔には緊張が張り付き、恐怖を隠す者、苛立ちを隠せない者がいた。


「何かがおかしい」

ヘイデンはほとんど聞こえない声でつぶやく。

「感じる」


ケイルは肩をすくめるが、いつもの笑みは消えていた。

「たぶんそうだな。でも今戻れない」


セレンは軽蔑の目でヘイデンを見る。

「迷うのはやめて。無駄な一歩は黄金を失うことになる」


エイラはほとんど聞こえない声でささやく。

「ヘイデン…信じてる。だけど…気をつけて」


ヘイデンは盾に握りこぶしをかけ、再び責任の重みを感じた。

前方で待つのは、単なる力の試練だけでなく、信頼、勇気、生き残るための試練。

一歩一歩が、最も恐れるもの――運命の裏切り、あるいは仲間と呼ぶ者たちの裏切り――に近づく一歩となるのだった。


第25階層の空気は濃く、ほとんど触れられそうなほどだった。冷たい霧が通路を蛇のように這い、血と濡れた石を思わせる金属臭を運んでいる。ヘイデン・クロスの一歩一歩が奇妙な響きを伴い、まるで階層そのものが生きているかのように、彼の動きを見守っているかのようだった。24階から感じていた予感は、ほぼ確信に変わった――何か恐ろしいものが待ち受けている。


「ここ…おかしい」

ヘイデンは低く、緊張を帯びた声でつぶやいた。

「引き返すべきだ」


ケイル・ドレイヴンは素早く彼を見たが、何も言わなかった。

セレン・ヴァレンは、警告を完全に無視するかのように、冷たい決意の光を目に宿している。

ガレス・ヴォルンは前方を進み、恐怖は彼の計算に含まれないかのように、一歩ごとに威圧的な音を通路に響かせた。


「ヘイデン、荷物を持て!」

ガレスが力強く命じる。

「前を守れ。何者も俺たちを止められない」


ヘイデンは深呼吸し、肩に盾を合わせる。

彼の役割は問いただすことではなく、守ることだ。体中の筋肉が緊張し、何が待ち受けていようと衝撃を吸収できる準備ができていた。


そして、叫び声が響いた。

鋭く、原始的なその声は石の壁に反響し、まるでダンジョンそのものが怒りで叫んでいるかのようだった。

ヘイデンは目を凝らした。


影から30体の変異リザードが現れる。

黒い鱗が松明の微かな光に輝き、赤く光る目が獲物を見据える。鋭い爪が床を引っかき、鋭い歯をむき出しにした口が synchronized に唸りを上げ、純粋な凶暴さの光景が広がる。


「ヘイデン!守って!」

エイラが負傷者のために弱い治癒バリアを展開しながら叫ぶ。


ヘイデンは盾を掲げる。

衝撃が体全体に雷のように響く。

吸収する一撃ごとに、妹に誓った約束と肩にのしかかる責任を思い出させる。

彼は正確かつ力強く動き、ブロックし、押し、襲い来る生物の進行を止めた。

一撃一撃がエネルギーを消費し、呼吸は重くなる。しかし、動揺するわけにはいかない。


「前進!」

ガレスが剣を掲げて叫ぶ。

「ラインを維持しろ!」


しかし、ヘイデンは異変に気づき始める。

仲間を守る最中、後ろを見るとエイラが絶望の声で叫んでいた。


「やめて!やめてください!」

彼女は懇願するが、誰も耳を貸さない。


セレンは強力な呪文を放つが、ヘイデンは彼女の優先順位が守ることではなく、攻撃にあることを理解する――モンスターを正確に打ち、そして…おそらく黄金を手に入れるためだ。

ケイルは素早く刃を振るうが、その目には隠した恐怖が見える。皮肉な笑みで覆っているが、恐怖は隠しきれない。

ガレスは決意を持って戦っているように見えるが、注意は安全ではなく、黄金に向いている。


木が砕け、骨が折れ、モンスターが唸る音がヘイデンを包む。

彼は自分の手にかかるすべての命の重み、下せない決断の重みを感じた。

そして、恐れていたことを悟る。


「彼らは…俺を置いていく」

ヘイデンの心臓の鼓動は絶望のハンマーのように打ち続ける。


無限に押し寄せる生物の波。

グループは退却を始める――再編成のためではなく、逃げるために。

ガレスは冷たい目でヘイデンを見、無言で出口に進む。

盾でラインを守るタンクを完全に無視して。


「ヘイデン、行って!」

エイラが涙を浮かべ叫ぶ。

「全員と戦うなんて無理!」


だがヘイデンは動けなかった。

今後退すれば裏切りになる――他者に対してだけでなく、自分自身に対しても。

深く息を吸い、盾を握り、再び前に進む。

生物を押し戻し、ラインを保持する。筋肉は燃え、打撃の一つ一つが最後のように感じられる。


世界は彼の周りで回転し、歯と爪、血のカオスが渦巻く。

金属の匂いが汗と恐怖と混ざる。

仲間の叫び声が響くが、助けは来ない――ただのパニックと見捨てられた声。


「こんなこと…起こるはずがない…」

ヘイデンはかすれた声でつぶやく。

「俺は守ったのに!俺は…」


盾に激しい一撃が入り、一瞬体勢を崩す。

肩と背中に痛みが走る。

だが立ち上がり、沈黙の誓いを胸に刻む。

失敗は許されない、何があろうとも。


変異リザードの波は止まらない。

攻撃は次々に押し寄せ、ヘイデンは盾で受け止める。

心は恐怖、怒り、痛み、そして揺るぎない決意で渦巻く。


ついに通路は完全な静寂に包まれた。

振り返ると現実は残酷だった。

グループは消えていた。

残っていたのは、かすかな足音と叫びの残響だけ。

見捨てられた。


ヘイデンはひざまずき、盾をしっかり握ったまま荒い呼吸を繰り返す。

一呼吸ごとに苦しく、心臓の鼓動は受けた裏切りを思い出させる。

涙が溢れそうになるが、許さなかった。

立ち上がらねばならない。生き延びなければならない。


「彼らは…俺を置いていった」

痛み、怒り、信じられなさで声が震える。

「でも…俺は戻る。必ず戻る。生き延びる力を…証明する」


第25階層は静まり返っていた。

ヘイデンの足音だけが反響する。

石も影も、彼の苦悩と新たに見出した決意を見つめているかのようだった。

ダンジョンは容赦しない。しかし、ヘイデンを打ち砕くことはできない。


盾を整え、単独で進む準備をしながら、ヘイデンは妹に、そして自分自身に静かな誓いを立てた。


「必ず戻る…誰も、モンスターも、人間の欲望も、俺を止められない」


置き去りにされた場所から踏み出す最初の一歩は、単なる肉体の移動ではない。

力、決意、生き延びる意志の再構築の一歩だった。

痛みも、打撃も、裏切りも、燃料となる。

ダンジョンの闇に包まれながら、ヘイデン・クロスは初めて確信した。

これは、ほんの始まりに過ぎない、と。

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