第22話 最強の説得

伊集院零が能力無効化リモコンを構え、にゃんまたち五人を見下ろした。


「さあ、僕の『部品』になれ。抵抗は無駄だ。君たちの能力データは全て僕の手の中にある」


教室は緊張で凍り付いた。アレックスは、一日の能力制限を温存しているが、**【5G】**が支配する機械の暴力の前では、彼の頭脳も無力だった。


その時、村上 にゃんまが一歩前に出た。彼の顔はアホモードの名残をわずかに残していたが、目はまっすぐで、かつてないほど真剣だった。


「零くん。待って」


にゃんまは、その純粋な眼差しで伊集院を見つめた。


「俺は、君の言ってることは、よく分かんない。衛星? データ? 難しいことは、アレックスに任せるから」


にゃんまは、感情を露わにした。 「でも、これだけは分かる。君は、寂しいんだろ?」


伊集院の顔が、わずかに歪んだ。常に無表情だった彼の瞳に、初めて動揺の色が浮かんだ。


「何を……戯言を」


「だって、俺たちと同じ**『陰キャ』**なんだろ?」 にゃんまは、屈託のない笑顔を見せた。 「俺も、ゆうとたちと出会うまで、ずっと一人でいた。能力を手に入れて、体が強くなっても、気持ちは一人だった。でも、アイツらが俺を助けてくれた時、初めて分かったんだ」


にゃんまは、ゆうと、アレックス、政宗、隼人の肩を順番に叩いた。


「俺たちの力は、一人で使うと、ただ世界を壊すだけなんだ。俺がアホになるみたいに、暴走しちゃう」


そして、伊集院が映し出したT.E.A.M.に捕らえられる瞬間の映像を振り返った。


「あの時、俺はT.E.A.M.に捕まって、能力を全部奪われた。もう、終わりだと思った。でも、アイツらが、命がけで助けに来てくれたんだ。俺の能力を、隼人が**『コア』**ごと回復させてくれたんだ」


にゃんまの言葉は、アレックスの戦略や政宗の理論とは全く違う、感情と絆という、伊集院のデジタルな支配領域外の力だった。


「零くんは、世界を『最適化』したいんだろ? データで世界を支配して、誰もが安心して暮らせる世界にしたいんだろ?」


にゃんまは、伊集院に手を差し伸べた。


「だったら、一人じゃなくて、俺たちと一緒にやろう。俺たちは、データじゃなくて、『手』で助け合う。君の全部見通す目と、俺たちの全部壊す力があれば、誰も傷つけない世界を創れるはずだ!」


伊集院は、しばらくの間、差し出された手と、にゃんまの純粋な目を見つめていた。彼の**【5G】の能力は、にゃんまの心拍数や表情をすべて解析できる。だが、そのデータは、『偽りがない』**という一つの結論しか導き出さなかった。


彼がこれまで見てきた世界は、冷たい機械のネットワークの中だけだった。しかし、目の前の少年たちは、彼が最も欠けている『人間的な繋がり』という熱を持っていた。


伊や応もなく、彼の頭の中に、アレックスが解析したあの言葉が響き渡った。


【アビリティ・レゾナンス(能力共振)】


その共振は、能力の増幅だけではない。心の増幅なのだと、伊集院は悟った。


伊集院は、静かに、そしてゆっくりと、手に持っていた能力無効化リモコンを下ろした。


「……村上にゃんま。君の言うことは、**非論理的(イレギュラー)**だ」


彼は、初めてその瞳に強い光を宿し、自らの手でにゃんまの手を握った。


「しかし、僕のデータには存在しない『可能性』だ。僕の【5G】の目を持ってしても、君たちの『共振』の行く末は予測できない。面白そうだ」


伊集院は、にゃんまの手を握ったまま、アレックスを見た。 「いいだろう。本田アレックス。君の『最適化』のシミュレーションに、僕の**『ネットワーク支配』を加えてやる。僕が、君たちの『情報コア』**になる」


こうして、にゃんまの純粋な説得力により、最大の脅威であった伊集院零は、六人目の能力者として「フォー・コア」に加わった。


教室で秘密を暴露されたはずの少年たちは、皮肉にも、その場で最強のチームを結成したのだった。世界が能力者の脅威に晒される中、**「シックス・コア」**として、彼らの戦いは新たな局面に突入する。

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