第19話 暗影

クライス達は調査結果を報告するために、ナーガ市長の元へ帰って来ていた。


5人を代表して【金華鳥】のヒバが報告を始めた。


「ナーガ市長、ただいま戻りました」


「お帰りなさい。調査はどうでしたか?」


「黒いドラゴンと接触しました」


「なんと...!!それで、討伐の方は?」


「残念ながら、逃げられました」


「そうですか...ですが良くぞ無事に帰って来てくださいました。今回のドラゴンとの接触で何か得ることはできましたか?」


「今回の調査でドラゴンの正体がわかりました」


「!?それは本当ですか?」


「はい。正確にはドラゴンではなく、敵のスキルでした」


「スキル?」


「はい。それについてお話する前に1つお伺いしたいことがあるのですが...」


「なんでしょう?」


「王宮の関係者で影を操るスキルを持っている方はいらっしゃいますか?」


「「「「!?」」」」


ヒバの質問に全員が驚愕していた...


「それは、つまり...我々の中に裏切り者がいる。ヒバさんはそう思っていらっしゃるんですね...」


「私たち5人が現場に到着した時、騎士団の戦闘した形跡はありませんでした。私の予想では、敵の目的は騎士団を誘き出し戦闘することでは無く、あの場所に来させることだったのだと思います」


「?...つまり、どういう意味ですか?」


「つまり、敵は騎士団を誘き出し、捕らえることが目的だったと思われます」


「では、我々の騎士団は、まんまと敵の罠に嵌められた...という訳ですか...」


「はい。先程、敵との戦闘でという場面を見ました。たぶん、騎士団は敵の影に取り込まれ、拉致されたのでしょう」


「ヒバさんの仰る事は良くわかりました。ですが、それと我々の中に裏切り者がいるというのは繋がらないのでは?」


「理由は簡単です。恐らく敵の狙いは【三姫さんき】の皆さんでしょう。最高戦力を潰せば、後々楽になります。その【三姫さんき】の動きを知ることができ、且つ、あの鉱山の広い空間を把握している人物となれば、王宮関係者の可能性が高いです」


「......」


「ナーガ市長...いるんですね?スキルで影を扱える方が!」


「...ご想像通り、1人だけいます」


「それは誰です?」


「シェイドです...シェイドのスキルは【影主シャドウマスター】...影を自在に操るスキルを持っています」


「そうでしたか...」


「ですがまだ信じられません。シェイドが裏切り者だなんて...」


「落ち着いてください。まだ確定ではありません。それでシェイドさんは今どこに?」


「私ならここにいます」


「シェイド...」


ヒバとナーガ市長の話を遮るかのように、シェイドが現れた。


「今まで何処にいらっしゃたんですか?」


「事務仕事をしておりましたが?何か問題でも?」


「いえ、問題ありません。それでシェイドさん、聞きたい事があるのですが、よろしいですか?」


「...なんでしょう?」


「我々が鉱山に入った後、アナタはどちらに?」


「すぐに王宮に戻り仕事をしていましたが?」


「ナーガ市長、本当ですか?」


「私は...シェイドが戻ってきたとこを見てはおりません...」


「私は1人で事務作業をしておりましたので、市長が見ていないのは当然かと...」


「なるほど...なるほど...では質問を変えましょう!シェイドさん、お手数ですが、右腕を見せていただけませんか?」


シェイドの表情が一瞬、暗くなった...


「なぜ?」


「先程、戦闘で敵に私の剣を投げましてね!ちょうど右腕に傷を負わせました。シェイドさんの無実を証明するにはピッタリと思いまして」


「なるほど...そうでしたか...良いでしょう」


そう言うとシェイドは来ていたスーツのジャケットを脱ぎ、シャツの袖をまくって見せた!


「......」


「傷が...無い!!」


「残念ながら、私はケガなどしておりません。ヒバ様の推理は面白いものでしたが、アテが外れましたね」


「...フフフ♡」


いきなりヒバが笑い出した!!


「何がおかしいのです?」


「いや〜、ごめんなさい♡ついつい♡実は私の投げた剣の先には特殊な塗料が塗ってあってね...」


「なに!?」


「もし敵が回復魔法で傷を塞いでもわかるように、特殊な光が出るようになってるの♡洗っても、数日は着いたままよ♡」


「光だと?そんな物が!?」


「アナタの右腕...その塗料でキラキラに光ってたから、可笑しくて可笑しくて...♡」


「クソッ!!そんな物があるなんて聞いてないぞ!?」


シェイドは自らの右腕を見ながら叫んだ!


その様子を見たヒバはニヤッと笑いながらシェイドに言いつける。


「嘘よ♡バーカ♡そんな物あるわけないじゃない♡でも、その反応...もう逃げられないわよ♡」


「........」


ヒバの作戦でシェイドは墓穴を掘ってしまった...


「シェ...シェイド?嘘よね?」


「ナーガ市長...アナタは本当におめでたい方だ...」


そう言うとシェイドの影がドラゴンに変化した!!


ギャオオオオオン!!


雄叫びと共に市長目掛け、ブレスを吐いた!!


ズドォォォン!!


「市長ー!!」


クライスが心配しながら叫んだ!!


「フハハハハハ!!市長、今日がアナタの最期だ!!...ん?」


煙の中から、市長を抱えたファルコの姿が現れた!!


「お怪我は無いでござるか?」


「ええ...ありがとう...」


「チッ...まだ生きていたか...」


「さぁ、シェイドちゃん♡もう逃げられないわよ〜♡」


全員がシェイドを包囲し捕まえようした、その時!!


ドォーン!!


「な、なんだ!?」


王宮の壁がイキナリ吹き飛んだ!!


壁が吹き飛び、できた穴から誰かが入ってくる...


「ホウ、久シブリダナ...」


フレイアは剣を握りながら叫んだ!!


「貴様!エンバー!!」


「「「「「!!!」」」」」


なんとエンバーが現れたのだ!!


全員驚いてエンバーの方を向くと、エンバーの後からもう1人、魔人が現れた。


「おいおいエンバー...お前の人形、なんか失敗してない?」


シェイドはエンバーの目の前にジャンプして移動すると跪いた。


「申し訳ございません。エンバー様...」


「シェイドさん...まさかエンバーの仲間だったんて...」


クライスの一言にシェイドは反応した。


「私はエンバー様の忠臣。エンバー様こそ絶対的な存在なのだ!!」


悲しそうな表情でナーガ市長はシェイドに語り掛ける。


「シェイド...いったいいつから...」


「フンッ!馬鹿な奴だ!!私は...私は...私は...?いつから...エンバー様と...?」


シェイドが急に頭を抱えだした!!


「あれ?あれ?ナーガ市長?あれ?」


明らかに様子がおかしい...


「チッ...調整不足カ...」


「調整だと?お前、シェイドさんに何をした?」


「フンッ...」


ビリッ!!


エンバーはシェイドの首に巻いてあるチョーカーを破り捨てた!!


「あ、あれは!!」


「【隷属の輪】!!」


シェイドの首には【隷属の輪】が取り付けられていた。


チョーカーはそれを隠すための物だったのである。


「タイプBハ理性ヲ残シ、命令ヲ実行サセヤスクシタツモリダッタンダガ、マダマダ完璧デハ無イナ...」


「シェイドは操られているのですね...」


「ナーガ市長...」


「私も戦います!!」


市長は魔法陣から大太刀を召喚した!!


その姿を見た魔人が楽しそうにエンバーに話しかける。


「おい、エンバー。どうやら市長もやる気みたいだぜ?せっかくなら使っても良いだろ?」


「許可シヨウ...」


「やった〜!使いたかったんだよね!!さあ!!お前ら殺し合いの時間だ!!」


ここに冒険者チームVS魔人チームの戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。

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