第8話 堕天
「う、う〜ん?ここは...?」
なんとなく見慣れた天井な様な気がする。
ここは何処だ?ベッドの上...?
「あれ?俺は確か...アルフレッドたちに襲われて...それで......あっ!!!」
クライスは慌てて、上体を起こした。
「あれ?無い?無いぞ?傷が無い!?俺、確かフレイアさんの剣で貫かれたはずなのに...」
剣の傷だけではない。あの時の戦闘で負った傷が綺麗さっぱりなくなっているのだ。
「どういうことだ?」
ガチャッ
クライスが悩んでいると、誰かが部屋に入ってきた。
「クライス!!目が覚めたのだな!!」
様子を見に来たフレイアだった。
「あ、フレイアさん。おはようございまっ...!」
フレイアは勢い良くクライスに抱きついた。
「あぁ...クライス...目が覚めなかったらどうしようかと思ったぞ...」
「あ、あ、あのフレイアさん!?」
「良かった...本当に良かった...」
フレイアが安堵の涙を流している。
「フ、フレイアさん!!む、む、むむむむ、胸が...!?」
クライスは赤面しながら固まってしまった。
「あ〜、オホン.....」
「!!!」
「2人とも、お熱いところ失礼するぜ」
「ギルド長!!」
「よう!クライス!とりあえず、目が覚めて良かったぜ!」
「ここは...?」
「ここは、ギルドの医務室だ。お前は戦いの後、丸2日寝たままだったんだぜ」
「丸2日?そういえば、俺、なんで助かったんですか?フレイアさんが回復魔法を使ってくれたんですか?」
「いや...私は回復魔法は使えないよ」
「じゃあ、ギルド長?な、訳ないか」
「おい!失礼だぞ!...まぁ、俺も回復魔法は使えないんだが.....」
「じゃあ、いったい誰が?」
「まぁ、その事についてはフレイア様に聞いてくれ。2人とも話が終わったらギルドの応接室に来てくれ。ズーク会長やタイタンのメンバーについて話がある」
「!!!」
「まぁ、気になるだろうが、先ずは2人できっちり話をしてくれ。それじゃあアイリと応接室で待ってるからよ」
そう言うとザックは医務室から出ていった。
「あの、フレイア様...話って...?」
「先ずは礼を言わせてくれ。本当に君のおかげで助かった。今こうしていられるのもクライスが呪いを解いてくれたおかげだ。ありがとう」
「いや、そんな!頭をあげてください!!ってあれ?そういえばフレイアさん...腕と目が...」
「ああ。君が呪いを解いてくれたおかげで再生したんだ」
「???」
「意味がわからないという顔だな。無理もない。先ず、どこから説明しようか。そうだな...先ずは私の腕や目について話そうか」
「目や腕、翼は7年前の魔王との戦いでって...」
「そうだ。だが私と初対面のとき不思議じゃなかったか?神族なのに腕とかが再生してないのはなんでだろう?って...」
「はい...正直気になってました。俺が昔聞いた話では神族の方々は怪我をしても一瞬で治るって」
「本来であればそうだ。どんなに身体的に欠損しても再生させることができる。神族を殺そうとするならば首をハネるか、心臓を狙うしかない」
「でも、フレイアさんの腕とかは再生していなかった...」
「ああ、そうだ。実はあれは魔王から受けた【呪い】のせいなのだ」
「呪い?怪我では無かったんですね!」
「クライスは魔王にトドメをさしたのは誰か知っているか?」
「いえ、知りません。人族と協力した神族の方だったということだけしか...!....もしかして.....」
「その感は当たっているよ。7年前の大戦のとき、魔王にトドメをさしたのは私なんだ。沢山の犠牲を出した。私の妹も、その時に.....」
「そうだったんですね.....」
「魔王は強かった。とてつもなくな。正直、私だけでの力では勝てていなかった。だが妹が最後の力を振り絞ってチャンスを作ってくれたんだ。その機を逃すまいと私は剣を振った」
「そして、勝利した...ということなんですね」
「だが、魔王はただでは死ななかった。最後の反撃をくらってしまったんだ。その技には効果があってな。神族の再生能力を消す呪い攻撃だったんだ。私は傷口は塞がれど、再生はしない身体になってしまったんだ」
「光属性の魔法とかで、どうにかできなかったんですか?」
「この呪いは魂に直接作用する呪いだったみたいでな。言ってしまえば魂の形を変えられてしまったんだ。光属性の魔法も効かないし、同じ神族でも呪いを解くことができなかった。呪われた私が神界に帰るのは気が引けてな。それで人界に残ることにしたんだ」
「神族の方々は心配されたんじゃないですか?」
「皆に止められたよ。でもあの時は妹の事もあって、全てがどうでも良くなっていたのかもしれない。人界で人目に付かず、ひっそりと暮らしたかった。私自身、呪いが解けることはないと諦めていたしね。だが奇跡が起きたんだ。クライス...君のスキル【解呪】だ...!!君のおかげで私は目と腕を取り戻すことができたんだ!!」
「俺にも、何がなんだか...あの時は必死でしたし...ただ、フレイアさんを助けなきゃって...」
「これは、私の推測なんだが、【解呪】というスキルは例えどんな呪いでも触れさえすれば解くことができる唯一無二のスキルなのかもしれない」
「そんなスキル、俺、初めて聞きました」
「私もだ。だがこうして現実に起きている。何より私自身が証拠だ。私は君に救われたんだ」
「そう言っていただけて嬉しいですけど、たまたま俺のスキルが噛み合っただけで、俺自身は役に立てませんでした」
「そんなことはない。君は勇気を出して私を救ってくれた。あんなに大怪我までして...本当にすまなかった...クライスには言葉で表現できないほど感謝しているよ」
「フレイアさん...あっ!そういえば俺の傷!肋骨は折れてたし、腹にも穴が空いてたと思うんですけど、なんで俺は生きてるんですか?」
「そうだな。君に1番聞いてほしいのはそこなんだ」
「えっ?」
「私は回復魔法は使えない。だから私は、ある儀式をしたんだ......」
「儀式??」
「君にキスをした」
「へ?」
「聞こえなかったのか?キスをしたんだ」
フレイアが、グッとクライスに顔を近づけ、いたずらっ子の様にニヤニヤしながら覗き込んできた。
「キ、キ、キキキキキキキ、キス?!?」
「そうだ。正確には私のエネルギーを口移しした」
「く、口、う...!??」
「この儀式を【堕天】と言う...」
さっきまで笑顔だったフレイアは一気に真剣な表情になった。
「この【堕天】という儀式は神族の間では禁止されている、いわば禁術だ」
情報過多で頭がついていかない...
キスでも衝撃だったのに...
禁止?禁術?
「私はクライスに謝らなければならない。私は君の人生を奪ってしまった...」
「ど、どういうことですか?」
「この【堕天】はな、自分の神族としてのエネルギーを相手に与え、回復、蘇生させるというものだ。だがデメリットが2つある。1つはこの儀式を行なった者は神族では無くなる」
「え?じゃあ、フレイアさんはもう...」
「そうだ。この背中が証拠だ。翼は全て抜け落ち、神族特有の再生能力も私にはもうない。今の私は神でも人でもない。そんな状態だ」
「そんな...」
「2つ目のデメリットは...この術をかけられたものは、術を使った者と運命を共にすることになる」
「運命を共にする?」
「簡単に言うと、私の魔力が届く範囲でなければ、君は行動することができない。そして...」
「そして...?」
「私が死ねば、君も死ぬ」
「え?」
「すまない。私は君から自由を奪ってしまった。強制的に制約のある人生を歩ませることになってしまった...それでも私は君に生きていてほしくて...」
「う〜ん?それって言うほど、デメリットですかね?」
「考えてみてくれ。私が死ぬまで、君は私に付き添わないといけないんだぞ?神族ではなくなったとはいえ、普通の人族と私では寿命が違う。君は普通の人族とは違う時の流れの中で生きていくことになってしまったんだ...」
「な〜んだ...そういうことか〜」
「な〜んだって...わかっているのか?君は普通の人族としての生活ができなくなってしまったんだぞ?」
「わかってますよ。つまり、こういうことですよね?俺はこれから毎日フレイアさんの料理当番をすることができるってことですよね」
「まぁ、それはありがたいけど...」
「っていうか、俺のことなんかより、フレイアさんの力が無くなった方が問題でしょ!!俺のせいで、本当にすみません」
「いや、私は良いんだ。だけど君には本当に申し訳なくてな...」
「いやいや!むしろ、ラッキーじゃないですか!こんな綺麗な人と一緒にいられるんですから!」
想定外の返答にフレイアは驚いてしまった。
「ほ、本当か?」
「はい!まだまだ実力不足ですけど、これから、よろしくお願いします!」
「ありがとう。こちらこそ、よろしく頼むよ」
「それじゃ、そろそろギルド長の所へ行きましょう!」
「そうだな。立てそうか?」
「はい!」
2人は医務室を出て、ザックとアイリが待つ応接室へと向かった。
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