第8話 二人の旅~海風の港町~

「聖官は忙しい。対応するには兎にも角にも超越した限界突破のスピードが常に必要だ……って先生は言ってたんだけど……」

 そこまで言うと、リナリーは素直に「ごめん」と謝った。

 涙と鼻水とその他諸々の液体でグシャグシャになった顔面を前に、そうするしかなかった。船着き場に上がった今でも彼女の腕は脚にしがみ付いている。

 ドードルはキッと睨んだ。

「初日からこの仕打ちですかそうですか……わたし、一生忘れませんから……!」

「ご、ごめんって~! ちょ~っと楽しくなっちゃっただけじゃ~ん!」

「ちょっと……!? 楽しく……!?」

「あっ、やっ、ドーちゃんの絶叫め~っちゃ可愛かったよ~!!」

「そんなのはいいですっ!!」

 ドードルはフラフラと立ち上がった。が、未だ巻き付いた腕は離れない。震えているようだ。

「……怖かったね」「うぐっ……」

 しばらくの間、頭を撫でてあげていた。


 二人は小さな漁村についていた。

岩山の斜面に建った木造の家々は、小ぶりだが丁寧な造りが細部まで覗える。赤く咲いた海浜植物が砂浜を囲み、波と呼応するかのように揺れ動く様は思わず足を止めるほどだ。海辺に浮かんだいくつもの船と、町のあちこちに置かれた網や錨などは港の装いを強調させていた。

 体調の復活したドードルが目をやった。

「ここが依頼書にあった漁村ですか? なにもおかしな様子は無いようですけど」

 リナリーは日差しを手で遮りながら辺りを見渡す。すぐに異変に気付いた。

「いんや、たしかに変だよドーちゃん」

「変?」

「うん。ここは漁村でしょ? 潮の流れも風も落ち着いてる日中だっていうのに、一隻も船が出てない。漁に使う道具もほったらかし」

 さすがにドードルも気が付いたようだ。ほとんどの住民が漁業で生計を立てる村では考えられない光景だ。よく見れば村人の数は少なく、表情はどんよりと暗い。

 砂浜で一人の幼い少女が退屈そうに草花をいじくっている。

「とてもじゃないけど活発な村には見えないよねー」

 そうしている二人の元へ数人の大人たちが近寄ってきた。

「その格好! アンタたちエルラント聖団の聖官さまかい!?」

「そ~です! 聖団に依頼を出したセイルポートって漁村はここで合ってますか~?」

 リナリーの言葉を聞いた大人たちは歓喜し、街で一番大きな屋敷へ二人を案内した。

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