第6話 伝書ドラゴン
その刀は魔女刀と呼ばれていた。神聖な力を人の手では触れられないほど強く練りこんでいる。本来なら大砲や巨大弓などの長距離兵器にしか扱えない技術を近接武器に転用できたのは、一重に『魔女付き(クローネ)』と称される彼女たちの存在だった。
「女の子に魔女をとり憑かせて兵器にするなんて聖団もエグイこと考えるよねー」
パンをかじるリナリーは食事を楽しんでいた。一方ドードルはテーブルの上のものにあまり手を付けていない。長い眠りから覚めて早々、自ら料理の腕を振るったのだがどんどんリナリーの口に吸い込まれていゆく。
未だ自分の身に起きた現実を受け入れられずにいた。当然といえば当然だ。
「私は聖堂の地下に住み着いていた魔女に憑依された……リナリーさんは?」
「リ! リ!! ィー!! って呼んでって!!」
「……リナリーさんはどうやって憑かれたんです?」
頑なな元司書ドードル。親交を深めるのは苦労しそうだ。
「もー! アタシは魔女の入った魔女媒体から! 君の中の魔女と戦うために変身したんだから!」
そうしなければあの場所で全滅していた。状況を鑑みた上での先生の判断だった。悔いがないといえばウソになるが、そうする他になかった。
ドードルは霧散した刀を思い出す。
「……あの刀を使えば魔女でも簡単に倒せるんです?」
「簡単なんてことは無いよー。ただ普通の武器とか魔法よりは断然効くってだけ。あとは身体の中の魔女の力をどれだけ上手く引き出せるかかなー」
ガタリと立ち上がったドードルは、リナリーの胸元に手を突っ込んだ。
「……急展開の超絶コミュニケーション。まさかこれも魔女の力?」
「ふざけないで下さい。゙お返じです」
どうやら起きる寸前のことは覚えていたようだ。
ドードルは手に感じる゙ドクリ゙という人間非ざる鼓動を感じ取った。
「私と同じ……本当に魔女が身体に……」
片手は自分の胸元に触れている。感触で事実が鮮明になってゆく。
「不安かもだけど安心してー。変に暴れだしたりしないから。今はアタシたちが『昼間』の状態だからね」
「……『夜』になったらどうなるんです?」
答えようとすると突然「ガーー!」という鳴き声が廊下の方から聞こえてきた。
目を向ける。一匹の子ドラゴンが飛んでいた。
「ま、魔物!?」
「あ! ガーちゃんだ!」
名前を反芻するドードル。それは部屋の天井を飛び回りリナリーの元に降り立った。
「そろそろ来るかなと思ってたんだー。ご飯は?」
「グワワ!」と首を縦に振る。腹を空かせていたのか、豪快に鳥の丸焼きをつつきはじめた。
「な、なんなんですかこれは?」
「紹介するねー! この子は子ドラゴンのガーちゃん! 聖団本部から指令書を運んでくる伝書ドラゴンだよ!」
「伝書ドラゴン……そんなものが……」
リナリーは嬉しそうにその伝書ドラゴン何某をなでる。黒い毛並みは艶々だ。
首に引っ掛けたホルダーを開けると、中には一枚の羊皮紙が丸まっていた。
「ん~と、なになに? 汚染された漁村の調査……」
パチンと、リナリーは指を鳴らした。なにか思い当たった様子だ。
「さっそく初任務だよドーちゃん! 明日の朝一番でしゅっぱーつ!!」
「……ドーちゃん?」
突然のあだ名に彼女はムスッとした。鶏肉を食い散らかす子ドラゴンと同じ扱いとは。
「……リナリーさん。苗字を教えてください。これからそっちで呼ぶので」
「なーんでそんな距離取りたがるのさー!! これから衣食住を共にする相棒でしょ!?」
「しませんし、違います」と吐き捨てたドードルはパンを齧った。
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