第37話

 夜がふける雨の中、商店の扉を叩き、なんども頭を下げてリンゴを買った。

 雨上がりの暗い夜道を心細くなりながら歩いた。


 その日は実りの月の最終日、魔物の国であるアシュディウムとの扉が開き、様々な魔物がやってくるとされていた。そんな夜に一人で買い物に行くなんて怖くてたまらなかった。もちろん、ティアリスはセレスティーンを怖がらせるためにそうしたのだ。


 びくびくしていたせいだろうか、しくしくと泣く声に気づいたとき、最初は魔物が現れたと思って心臓が止まりかけた。


 だが、耳を澄ませた彼女は、それが子供の泣き声だと気がついた。

 どうして、と思ってそちらに行き、驚いた。本当に幼い子どもが泣いていたからだ。


「どうしたの?」

 声をかけると、男の子は涙に濡れた金の目をセレスティーンに向けた。

 美しい、とセレスティーンは思わず見とれた。紫の髪はつややかで、顔の造形は神が作りたもうた最高傑作のようだった。


「お供とはぐれちゃった」

「まあ、迷子なの?」


「違う。迷ってはいない」

 強がる男の子がなんだかかわいくて、つい頬に笑みが浮かぶ。

「でも、帰れないんでしょう?」

 彼女の問いかけに、彼は頷く。


「えっと、こういうときは警備隊かしら……」

 つぶやいたセレスティーンに、男の子ははっとしてしがみつく。

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