第32話

「う、うわああ! あ、熱い!」

 悶えながら助けを求めて手を伸ばす。だが、近くにいたティアリスもエマニーズも肩を寄せ合ってそれを避けた。


 アーロンが手を振ると、炎は一瞬で消えた。ドルファスはどこも火傷などしておらず、目を白黒させる。


「お前ごときが我が婚約者に触れるなどおぞましい。本物の炎でなかったことを感謝するがいい。これは警告だ。次に侮辱を向けたらどうなるか、わかるな?」

 床にへたりこんだドルファスはがくがくと頷いた。


「なんの騒ぎだ」

 低い声が響いた。

 国王陛下と、その後ろには王子殿下もいる。

 アーロン以外の人々が一斉に頭を下げ、慌ててセレスティーンも頭を下げた。


「お騒がせして申し訳ございません。我が婚約者にまとわりつく虫がうるさくて」

「そうでございましたか」

 国王が答える。


「あ、あの、陛下」

 ドルファスが頭を下げたまま口を出す。


「この女は私の婚約者でございまして、正式に婚約しておりますので……もし婚約破棄ということでしたら、慰謝料が発生するかと」

 へつらうようにドルファスが言う。その顔には金勘定をする意地汚さが浮かんでいた。

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