第24話

 娼婦と思われてしまった。セレスティーンは恥ずかしくてただうつむくことしかできない。


 そのときだった。

 ラッパの音が大きく響き渡り、オーケストラが音楽を中断した。


「アシュディウム魔術皇国の皇子、アーロン・ナイト・ワディンガム殿下、ご来臨!」

 大声とともに、ドアが開かれる。

 オーケストラが荘厳な入場曲を奏で始め、ほのかに輝く花びらが天井から舞い散った。


「まあ、どこから」

「綺麗! 輝いてますわ!」

 女性たちはうっとりと花びらを見つめ、手を伸ばす。


 セレスティーンも思わず手を伸ばした。触れるとそれにはなんの感触もなく、淡く溶けるように消えた。

 開かれたドアには先導する男性がおり、続いて紫の髪の男性が現れた。


 セレスティーンは息を呑んでその男性を見つめる。


 人とは思えないすさまじい美貌だった。二十代半ばほどのようで、凛とした気品が全身から漂う。紫の服に黒いコートを羽織っていて、それが彼の美しさをさらに際立てていた。


 あの人だ。夢に出てきたあの人。アーロンと呼ばれていた……そうだ、アーロン様だ!


 頭の中の霧が晴れたかのようにはっきりとその名が頭に浮かぶ。

 頭を下げた人たちの間を、堂々と彼は歩む。


 セレスティーンはただ呆然としてお辞儀も忘れて彼を見ていた。

 目が合うと、彼はにこっと笑顔を向けて歩き去る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る