「セレスティーン様、大丈夫ですか？」

　タリアーナに話しかけられ、彼女ははっとした。手が止まっていたことに気がつき、慌ててガラス磨きを再開する。

「大丈夫。ちょっと考えごとしてて」

「今日は少しぼんやりしておいでですね」

「明日、急に国王陛下の夜会に行くことになって」

「まあ！　素敵！」

「だけど、なにをどうしたらいいのかわからないわ」

　セレスティーンはずっとメイドとして扱われていて淑女教育などされていない。幼い頃にやった記憶はあるが、もうおぼろげだ。

「大丈夫ですよ、セレスティーン様なら」

「ありがとう」

　気休めであれ、励ましてくれる気持ちが嬉しかった。

「王子殿下に見初められたりして」

「それはないと思うわ。だって私は傷物なのよ」

　夢の彼が王子であったらと夢想はするものの、ありえないとわかっている。ましてや自分は傷物、首には魔族の紋章のような痣がある。

　魔族は異形であり、魔術を使って人を脅かすという伝説があり、人と魔族は長く対立していた。かつての人間にとって魔族は忌むべきものであり、脅威だ。

　交流ができた今でも恐れられており、魔族の紋章のような痣がある彼女は魔に魅入られた者として貴族の間で忌避されていた。

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