プロローグ2
けたたましく目覚まし時計が鳴り、あっという間に戦場からベッドの上へと引きずり戻された。しばらくベッドの上で座り込み、呼吸を整え、頬を伝う涙を拭った。
いつもの夢に続きがあったことや、唐突に思い出した「オレシア」という名の女性のことなど、普段とは違う出来事に頭が混乱する。
キリルは何十年もの間、夢の中で誰かを探していた。そしてその出来事が、古い記憶のかけらであることに気がついたところで目が覚めるのだ。だが、今朝は違った。
思い出したい。もっとはっきりと、鮮明に、思い出したい。
思い出したくて仕方がないけれど、どこかでそれを拒む自分がいる。思い出すことで、過去に置いてきた何かを知ることが、どうしようもなく恐ろしい。そんなはっきりしない自分に、心底腹が立つ。
激しく動悸していた胸がだんだんと落ち着いてきたところで、冷たい床に足をつけた。気持ちが浮かないままカーテンを開けて、キッチンに向かった。適当な厚さで切ってあった黒パンを焼いている間に、湯を沸かしてコーヒーを淹れる。そしてしばらくの間、いつものようにコーヒーが一滴一滴と落ちる音だけが響く空間でぼんやりと過ごす。次第に必需品以外何もない無機質な部屋と、静まり返った空気に耐えきれなくなり、適当にテレビをつける。
こんなにも些細なことが、こんなにも寂しい。
何十年もの間目を背けて逃げてきたが、毎日見るあの夢は、実際にキリルが経験したことなのだ。
記憶のかけらを一つ一つをつなぎ合わせて見つけ出した(思い出した)、キリルが二十代の頃、戦争に徴兵された頃の、忘れてはいけない大事な記憶。今となっては、ただ、追憶することしかできない。
キリルは戦争の中で、ある女性に出会い、恋をする。だが、彼女はキリルにとって敵となる国籍を持つ人間であった。キリルは思い煩った。しかし、彼女はキリルが敵であるにも関わらず、向日葵のような屈託のない笑顔を向ける。
彼女はキリルの心に気づいてくれた。あの出来事から何十年たった今でも、強くなれていないけれど、キリルはずっと彼女を愛しているのだろう。
今となってはもう戻ることができないけれど、願うことが許されるのなら、彼女にもう一度会いたい。
何十年もの間、キリルが微かに願っている、叶うはずのないことだ。
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