「白銀リリィとの前哨戦」


 翌日、放課後。


 部室には、緊張した空気が漂っていた。


 白銀リリィが、約束通りに現れた。


 彼女は、一人で部室に入ってきた。


「お待たせしました」


 リリィが、静かに頭を下げた。


 僕は、彼女を見た。


 銀髪、赤い目——そして、どこか悲しげな表情。


「リリィ」僕は言った。「お前の能力は?」


「私の能力は——"凍結"です」


「……凍結?」


 リリィが、手のひらを差し出した。


 その瞬間——空気中の水分が凍りつき、小さな氷の結晶が浮かんだ。


「私は、物体を凍らせることができます」


 天音が、驚いた声を上げた。


「それって……カジノゲームに、どう使うの?」


 リリィが、微笑んだ。


「見せましょう」


---


 ゲームは、ルーレット。


 僕とリリィが、テーブルを挟んで向かい合った。


 御影がディーラーを務める。


「ルールは単純。10回勝負で、多く当てた方が勝者だ」


 第一ゲーム。


 御影が、ルーレットを回した。


 玉が、円盤の上を滑る。


 僕は、玉の軌道を観察した。


 初速、回転数、摩擦——全てを計算する。


「17に賭ける」


 リリィが、静かに言った。


「23に賭けます」


 玉が——。


 その瞬間、玉の動きが——急激に遅くなった。


 まるで、空気が重くなったかのように。


 玉が止まる。


 23。


 リリィの勝ち。


「……今の、何だ?」


 リリィが、静かに説明した。


「私は、玉の周りの空気を——わずかに凍結させました」


「空気を?」


「ええ。凍結した空気は、通常より密度が高い。だから——玉の動きに、抵抗が生まれます」


 リリィが、微笑んだ。


「その抵抗を利用して——玉の軌道を、微調整するんです」


---


 司が、驚いた声で言った。


「それは……黒瀬の確率支配と似ているな」


 凛が、険しい顔をした。


「でも、もっと繊細ね」


 御影が、静かに言った。


「リリィの能力は——物理干渉型だ。確率そのものではなく、"環境"を操作する」


 御影が、僕を見た。


「神楽くん。これは——厄介だぞ」


---


 第二、第三、第四ゲーム。


 リリィの能力は、完璧だった。


 空気を凍結させ、玉の軌道を微調整する。


 その精度は——驚異的だった。


```

現在スコア:ユウ 0勝 - リリィ 4勝

```


 圧倒的な劣勢。


 だが——僕は、冷静に観察を続けた。


 リリィの能力。


 空気を凍結させる——。


 ならば、その凍結には——「範囲」があるはずだ。


---


 第五ゲーム。


 僕は、リリィの動きを注視した。


 彼女が能力を使う瞬間——わずかに、息を吐く。


 その息が——白く、冷たい。


 つまり——。


「リリィ」僕は言った。「お前の能力、"呼吸"と連動してるだろう」


 リリィの目が、わずかに揺れた。


「……どうして?」


「お前が能力を使う時——必ず、息を吐いてる」


 僕は、リリィを見た。


「つまり、お前の凍結能力は——"吐息"を通じて発動する」


「……」


「ならば——お前が息を吸っている瞬間は、能力が使えない」


---


 御影が、ルーレットを回した。


 玉が回転する。


 僕は、リリィの呼吸を観察した。


 彼女が——息を吸った。


 今だ。


「31に賭ける」


 玉が止まる。


 31。


 当たった。


 リリィが、驚いた顔をした。


「……すごい。呼吸のタイミングまで読むなんて」


「お前の能力は強い」僕は言った。「だが、能力には必ず——"発動条件"がある」


---


 第六ゲーム以降。


 僕は、リリィの呼吸のリズムを完全に読み切った。


 彼女が息を吸うタイミングで——賭ける。


 そのタイミングでは、彼女の能力は発動しない。


```

最終スコア:ユウ 6勝 - リリィ 4勝


僕の勝利

```


---


 リリィが、静かに微笑んだ。


「……負けました」


 彼女が、立ち上がった。


「約束通り——私の能力の秘密を教えます」


「秘密?」


「ええ」


 リリィが、真剣な目で言った。


「私の凍結能力には——致命的な弱点があります」


---


 リリィが、説明を始めた。


「私の能力は、"温度"に依存します」


「温度?」


「ええ。気温が高いと——凍結の効果が弱くなります」


 リリィが、自分の手を見た。


「そして——私の体温も、下がります」


「……体温が?」


「長時間、能力を使い続けると——私の体温は、危険なレベルまで下がります」


 リリィの表情が、暗くなった。


「最悪の場合——私自身が、凍死します」


---


 全員が、息を呑んだ。


 天音が、心配そうに言った。


「それって……大丈夫なの?」


「ええ」リリィが、微笑んだ。「短時間なら、問題ありません」


 だが——その笑顔は、どこか無理をしているように見えた。


 御影が、静かに言った。


「リリィ。君は——なぜ、その能力を使い続けるんだ?」


「……」


 リリィが、少し考えた後——静かに答えた。


「私には——証明したいことがあるんです」


「証明したいこと?」


「ええ」


 リリィの目が、真剣になった。


「私の能力は——危険です。でも、だからこそ——使い方次第で、人を救えると信じています」


「……」


「全国大会で——私は、それを証明したい」


---


 僕は、リリィを見た。


 彼女の目には——強い決意が宿っていた。


「リリィ」僕は言った。「全国大会で、また戦おう」


「……はい」


 リリィが、微笑んだ。


「その時は——今日より、もっと強くなっています」


「俺も」


 僕たちは、握手した。


---


 リリィが去った後。


 凛が、静かに言った。


「……彼女、強いわね」


 司が、眼鏡を押し上げた。


「能力も強力だが——それ以上に、覚悟が強い」


 天音が、心配そうに言った。


「でも……体温が下がるって、危険だよね」


 御影が、頷いた。


「ああ。リリィの能力は——諸刃の剣だ」


 御影が、僕を見た。


「神楽くん。全国大会には——リリィのような、"命を賭ける"能力者たちがいる」


「……」


「君は、どう戦う?」


---


 僕は、しばらく考えた。


 そして——。


「俺は」僕は言った。「誰も傷つけたくない」


「……」


「リリィも、他の能力者も——みんな、必死に戦ってる」


 僕は、拳を握りしめた。


「だから、俺は——論理で戦う。誰も傷つけない、戦い方で」


 御影が、微笑んだ。


「……それが、君の答えか」


「ああ」


「なら」御影が、僕の肩に手を置いた。「その答えを——全国で、貫け」


---


 その夜。


 僕は、自室でノートを開いた。


 そして、書き始めた。


```

【リリィ戦から学んだこと】


1. 能力には、必ず「発動条件」がある

2. リリィの凍結:呼吸と連動、体温低下のリスク

3. 全国には、命を賭ける能力者がいる


【自分の信念】

誰も傷つけたくない。

論理で戦い、誰も傷つけない戦い方を貫く。


【課題】

相手を傷つけずに勝つ方法——

それを、全国大会で証明する。

```


 ペンを置き、窓の外を見る。


 月が、雲に隠れている。


「二週間後全国大会が、始まる」


 僕は、呟いた。


---


 同じ頃。


 北海道・北斗高校。


 リリィが、一人で氷の部屋にいた。


 部屋全体が——氷で覆われている。


 彼女は、氷の椅子に座り、何かを考えていた。


「神楽ユウ……」


 リリィが、呟いた。


「あなたは——優しい人ですね」


 彼女が、自分の手を見た。


 その手は——わずかに、震えていた。


「でも——優しさだけでは、勝てません」


 リリィが、立ち上がった。


「全国大会では——私も、本気で戦います」


 彼女の周りで、氷の結晶が舞った。


「たとえ、それが——私の命を削ることになっても」


---


 翌週。


 部室に、また来客があった。


 今度は——三人組だった。


 一人は、黒いスーツの青年。


 一人は、赤いドレスの少女。


 一人は、白い作業着の少年。


「初めまして」黒いスーツの青年が言った。「私たちは、中央アカデミーから来ました」


 中央アカデミー——鳳凰院雅の母校。


 御影が、警戒した顔をした。


「……何の用だ?」


 青年が、微笑んだ。


「ご挨拶です。全国大会で——お手合わせ願いたく」


 青年が、僕を見た。


「神楽ユウさん。あなたの戦いを——拝見させていただきました」


「……」


「素晴らしい。"無能力"でありながら、能力者を破る」


 青年が、一歩前に出た。


「ですが——私たちは、そう簡単には負けません」


 青年が、名刺を差し出した。


```

中央アカデミー

生徒会長

九条レイジ

能力:時間遅延

```


 赤いドレスの少女も、名刺を出した。


```

中央アカデミー

副会長

緋色アヤメ

能力:感覚増幅

```


 白い作業着の少年も、名刺を出した。


```

中央アカデミー

戦術長

白川ハルト

能力:構造解析

```


 九条が、不敵に笑った。


「全国大会で——あなたの"無能力"を、完全に破壊します」


「……」


「楽しみにしていてください」


 三人は、それだけ言って去っていった。


---


 静寂が、部室を包んだ。


 天音が、不安そうに言った。


「ねえ……全国大会って、本当に大丈夫なの?」


 凛が、険しい顔をした。


「……強敵ばかりね」


 司が、眼鏡を押し上げた。


「データ的に見ても——厳しい戦いになる」


 だが——御影は、微笑んでいた。


「みんな」御影が言った。「確かに、相手は強い」


「でも」


 御影が、僕を見た。


「私たちには——神楽くんがいる」


「そして」


 御影が、全員を見回した。


「私たちには——"仲間"がいる」


 御影の目が、輝いた。


「それが、私たちの——最大の武器だ」


---


 その夜。


 僕は、自室で考えていた。


 中央アカデミー——鳳凰院の母校。


 九条レイジ、緋色アヤメ、白川ハルト——。


 全員、強力な能力者だ。


 時間遅延、感覚増幅、構造解析——。


 どれも、厄介な能力だ。


 どうやって戦えばいい?


 スマホが震えた。


 メッセージが届いていた。


```

差出人:鳳凰院雅

件名:期待している


神楽ユウ君。


中央アカデミーの三人が、訪問したようだね。


彼らは優秀だ。だが——

君なら、勝てると信じている。


なぜなら、君には——

"答えのない問い"に立ち向かう勇気があるからだ。


全国大会で、会おう。


鳳凰院雅

```


 僕は、画面を見つめた。


 答えのない問い——。


 それは、何を意味している?


 窓の外を見る。


 月が、明るく輝いている。


「あと一週間」


 僕は、呟いた。


「全国大会が——始まる」


---


次回、第16話

「決定的敗北」

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