引きこもりと魔法のある世界

雪待 月代

第1話「通知書」

「引きこもっていたら、いつの間にか世界が変わっていたよ……」


 引きこもり三年。

 在宅でできる仕事を見つけてから、外に出なくなった。洗濯機を全自動に変えてからは外干しもやめ、食料も日用品もすべて宅配。マンションの一室で生活を完結させていたら、ある日、私の知っている世界は“魔法が存在する世界”に変わっていた。


 誰もがスキルや適性さえあれば魔法を使える体質に変化し、国家は国民全員に対してスキルと魔法の適性検査を義務化した。

 役所から届いたのは、その通知書だった。


「えーと……講習とスキル判定、それに魔法の適性検査を行うので、各役所に赴いてください……か」


 内心、えー、と思いながらネットで調べてみると、どうやら世界は半年前に変わっていたらしい。それも、かなりの騒動だったとか。

 あぁ……ニュースもSNSも煩わしくて全部遮断してたからなぁ。そんなことになってたなんて。


 日付は一ヶ月以内の予約制だった。

 

「はぁ、予約かー。三年前から情報を断ってたから、こういう手続きにも疎くなったな……」


 そう思いながら、近くの役所に予約を入れる。

 一時間ほどの講習の後、スキルと魔法の適性を調べるという。

 バスに乗るのも、人混みも嫌だな……なんて思いつつ、予約した日には外に出なきゃいけない。

 ――そうしたら、私はもう“引きこもり”じゃなくなるんだ。


 ※


 外に出た瞬間、三年前の光景が一変していた。


「な、な、なんだ、これ……」


 まず、交通が違っていた。自動車の列の中に、見慣れない生き物にまたがって同じ速度で走る人たちがいる。あれも“スキル”か“魔法”なんだろうか。

 コンビニでは、客がクレジットカードでも電子マネーでもなく、手を翳して支払いをしていた。

 たまに現金を使っている人もいて、私は少しだけ安心する。


 宅配は相変わらずネット決済で問題なかったけれど、どうやら“手を翳す決済”には専用の機材が必要らしい。半年でここまで普及するなんて、すごいことだ。

 なぜそんなに流通したのか調べてみると、クレジットカードや電子マネーの煩雑さを理由に、政府が「店舗はこれ一本に統一しろ」と通達を出し、機材を国の負担で導入したのだとか。確かに、店側の負担は大きいものね。


 ――世界は、スキルや魔法の出現によって、私の知っていた“常識”をあっけなく塗り替えていたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る