魔王封印の依頼が来ました
間中未森
第1話 宰相さんがやってきた
あなたの困りごと代行します!
掃除、お使い、修理、いろいろご相談ください。
下町の一角にある小さな看板、僕の店だ。小さいながら、お客さんが途切れない程度には繁盛している。
「ヤーシュ、昨日はありがとう。これ、代金」
「わざわざ、ありがとうございます。お子さんの怪我は大丈夫そうですか?」
「ああ、ヤーシュが俺の代わりに医者に連れてってくれたから、処置が早く済んだよ。助かった」
「いえいえ、お役に立てて良かったです。また、ご依頼くださいね」
にっこり笑顔で接客する。仕事の基本だ。受け取ったお金を片付けていると、ちりん…とドアベルが鳴る。次のお客さんだ。
「予約はないが大丈夫だろうか?」
入ってきたのは、仕立ての良い服を身にまとった年配の男性。新しいお客さんだ。
「いらっしゃいませ。大丈夫ですよ」
おや、どこかで見たことある顔だと思ったら、宰相さんだ。そんな偉い人が何で僕の店に?
「ふむ…いろいろ相談とあるが、魔物の封印は可能だろうか?」
宰相さんは、僕をまじまじと見ながら依頼内容を話す。ああ、魔物ね。きっと、僕の体格を見て心配しているのかな。着痩せするけど、割と筋肉はあるんだよ? 魔法も強くはないけど、使える数はそれなりにあるしね。代行業って、体力仕事なんだよ。
「大きい物は無理ですけど、僕よりも小さい物なら大丈夫です」
僕の答えに宰相さんは安心したようだ。
「そうか。では依頼をしよう」
でも、専門の職種もあるのに、こんな下町の代行に頼むの? もしかして、数が多いのかな?
「何の魔物ですか? 数は?」
「ああ、魔王一人だ」
魔王? 魔王って勇者が倒すあの魔王? 聞き間違いかな?
「間違いではない」
心の声が漏れていたらしい。宰相さんが返事をしてくれた。
「えっと…あの、魔王は無理です」
「何故だ?」
いや、だって魔王だよ? 庶民の僕なんか敵うわけがないよね? 勇者の仕事だよね?
「いや、僕ではなく勇者のほうがいいのでは…」
宰相さんは、勇者という言葉に顔をしかめた。
「勇者は…ぎっくり腰になった」
「は…?」
「今代の勇者は60歳を過ぎたのは知っているだろう。先日、孫と遊んでいる時にグキッと…」
「……」
勇者でもぎっくり腰になるんだ。
「そんなわけで、封印依頼をしたい」
「いや、でも…」
「報酬は弾む」
「いや、そういうことでは…」
お金も大切だけど、命には代えられないよ?
「あら、受けたらいいじゃない」
「母さん!」
奥の部屋で話を聞いていたらしい母が割り込んできた。さすが、お金の話に目聡い。笑顔の奥にギラギラした欲を感じる。かなり怖い。でも実際に働くのは僕だからね。ここは譲りたくない。
「僕には無…」
無理、と言いかけた僕の口が何かで塞がれた。母の手だ。実力行使か、ひどいな! 母の手を解こうともがくが、反対に頭を押さえつけられる。
「謹んでお受けいたします」
「では、よろしく頼む」
抵抗できないうちに、勝手に承諾されてしまった。ひどい!
宰相さんが店を出て、僕の頭と口をふさいでいた手が離される。
「ぷはっ、母さん、ひどい! 僕に死ねっていうのか⁉」
「そんなわけないでしょう。あんたなら大丈夫よ」
「その根拠はどこに⁉」
「なんとなく?」
指先を口元に当てて小首を傾けてみたところで、可愛くはない。
「やっぱりひどい!」
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