英霊を呼び出せる俺、勇者の霊に憑依されて勇者のフリをしていただけなのに魔王クラスの討伐対象になってしまう~冥界帰りのダンジョンマスター~
矢島やじ
プロローグ
第1話 高難易度ダンジョン
ランタンの灯りを頼りに通路を進んでいく。
壁には魔法の光を灯している光石の松明が掛けられているが、設置されている間隔広いため通路は薄暗い。そのため、モンスターの奇襲やトラップを警戒してランタンに魔法の火をつけていた。
「ここがボス部屋か?」
そう言うと、俺――ロア・フォードレスは立ち止まった。
落ち着いた紫色のローブを揺らし、俺が振り向くと、神経質そうな騎士が睨んできた。
「開けてみないとわからないだろ。ほら、ボクに確認を取る前にさっさと入ったらどうだい?」
俺に先陣を切らす気満々なこいつは、セシル・エギエネスだ。種族は半獣人で、黙っていれば短い黒髪の美少年だが、気難しく性格が悪い。
獣王国で親衛隊の隊長を任されていた凄腕の騎士で、人間に狼の耳と尻尾が生えていて見た目は可愛いが、本人は非常にドライでクールだ。
早い話がこいつは強くて女に人気がある。鼻にくるタイプの美少年だ。
「お前それでも騎士か。前衛なら前に出ろ」
「ダンジョン探索なら君の方が適任だろ。辛気臭く死霊のご機嫌でも窺ったらどうだい?」
「いちいち
セシルに言われた通りにするのは癪だが、ここはアローカス森林深層のダンジョン――不屈の迷宮だ。難関ダンジョンのひとつであり、言い伝えによると冥界の大魔術師が作ったとされる受肉の秘薬が収められている。
(死に決して屈しない不屈のダンジョンか……受肉の秘薬って死者が蘇る者らしいから、俺の能力と相性いいな)
俺は結晶杖を振るった。
すると、黒い煙のようなものが扉に向かって流れ、数回激しく動くと霧散した。
(この反応は誰か死んでるな……死者の煙が流れた感じから考えるとモンスターにやられたようだ)
死者の魂を見て、ダンジョン内で何があったのか察した。
これが俺の職業、降霊術師の仕事だ。探索スキル的なことができるからこのパーティで俺は前衛にいることが多い。
「で、どうなんだい? 何がわかった?」
「激しい戦闘があったみたいだ。たぶんボス部屋だと思う」
俺がセシルに答えると、少し離れたところから修道服を着ている美女が歩み寄ってくる。
「お話はまとまったかしら?」
空のように透き通った長い髪が特徴的な彼女はルナマリス・ローエンベルジュ。職業は聖女で回復魔法と支援魔法のエキスパートだ。
聖女と言えば神に選ばれし聖人で、俺から見てもルナマリスはそれにふさわしい人格だと思う。優しくて包容力があるし、いつも俺たちを見守ってくれているお姉さんだ。
だから俺もルナマリスには正直なわけで、俺はすっとセシルに指をさした。
「「――こいつ(彼)が先に部屋に入る」」
俺とセシルの声が重なった。
「いや、なんでだよ。いきなりモンスターが襲ってくるかもしれないし、機動力と防御力があるお前が適任だろ」
「何を言うかと思えば、ボクの対応力任せじゃないか。それより、死が身近な降霊術師なら霊の警告とかで回避できるだろ」
「そんな便利なもんじゃねーよ。スキルを使うのにもそれなりに時間がかかるし、隙もあるんだ」
「ふふふ、今日も息ピッタリだねぇ」
子供っぽい声が聞こえてきた方向を見やると、ルナマリスの後ろから少女がふらふらと出てきた。
銀髪のポニーテールは活発な印象で、褐色の肌と合わさって健康的だが目がちょっととろけてる。手には、氷系の魔法を強化してくれる永久凍土の杖と酒の瓶を持っていた。目がとろけているのはこの酒で酔いが回ってるせいらしい。
「お前まだ飲んでるのか?」
「ふふん♪ そーだよ♪」
俺が呆れた視線を向けると、笑顔を返された。
長い耳で褐色の肌だから種族はダークエルフとわかるが、ダークエルフがここまで酔っぱらうのは他に見たことがない。
しかしこいつはただの酔っ払いダークエルフじゃない。クシィ・シュトラムといえば、ダークエルフの国では知らない人がいないほど有名な
「いい加減飲むのをやめろ。酔っぱらってちゃまともに戦えないだろ」
「大丈夫だよ。ロアは心配性だなぁ。このくらいで潰れる私じゃないよ。それにお酒を飲むのはね。魔力を回復するためでもあるし」
クシィのスキルの一つに〈酒こそ魔力の源〉というものがある。その名の通り酒を飲むと魔力が回復するものだ。
「酒を魔力に変化するスキルとか冗談みたいなスキルもってるもんな……」
ため息交じりに俺が言っていると、ガチャリと扉が開いた。
振り返ると、セシルが扉の向こうを覗き込んでいた。
「広間が見えるけど、モンスターはいないみたいだ」
「結局お前が行くんじゃねぇか……」
「君がくだくだやってるからだろ」
「それはお前が突っかかってくるからそうなったんじゃん」
「ともあれ、勇者パーティのボクらならどんな敵でも問題ないよ」
俺を無視し、セシルが挑戦的な笑みを浮かべた。
獣王国の元親衛隊長に聖女、ダークエルフの
「確かにいずれ魔王にも挑むパーティだしな、俺らって」
「その俺らにはアタシも入ってるわよね?」
子供のような声が聞こえた方を向くと、ルナマリスのシスターベールに隠れた首の後ろから小さな生き物が出てきた。
黄色い体毛に丸っこい耳をしたそいつは、風魔法を使ってこっちへモモンガのように飛んでくる。
勇者パーティの癒し担当のモンちゃんだ。
モンちゃんが俺の肩に乗って頬をツンツンしてくる。
「ねぇねぇロア」
「もちろん入ってるよ。戦いで疲れててもこうやってモンちゃんを撫でてると疲れが吹っ飛ぶからな」
「そぉう? ふふっ、ロアの役に立ててうれしいわ」
「獣とイチャイチャするならあとにしてくれないかい」
「は? イチャイチャしてないが? 癒されてるだけだが?」
「失礼ね。アタシは獣じゃなくて妖精よ?」
「ふん」
抗議する俺とモンちゃんを鼻で笑うと、セシルがルナマリスを見た。
「
「ええ、わかったわ。
ルナマリスが魔法を唱える度に俺たちの身体が淡く光る。
『ロア・フォードレス 職業降霊術師 ステータス レベル66 生命420 魔力370 物理攻撃力50→60、物理防御力100→120、魔法攻撃力250→300、魔法防御力300→360、俊敏性280。各属性耐性プラス10』
ステータスを見る魔法で自分のパラメーターを見ると、攻撃力と防御力が二割ほど上がって属性耐性までついていた。
「じゃあ行こうか。前衛にボク後衛をルナマリスとクシィ、ロアは状況を見て変身してくれるかい?」
「ああ、任せとけ」
「クシィちゃん、そろそろお酒はやめましょうね」
「んくんく、う? あ、やっと戦うんだね」
「お前は隙あらば飲んでるな……」
クシィを介抱するように背中を押すルナマリスを見ながら俺は呟いた。
それからすぐ扉に入って、広間に向かって俺たちは歩いていく。
扉から広間までは通路のような道になっていて、両脇は深い谷のような構造になっている。
ザーザーザーザー。
水の音がする。
(この下は水路になってるのか?)
そう思って、俺は下を覗き込んだ。すごい深さだ。六十フィート以上はありそうくらいだ。街の市壁よりも余裕で高い。
「ひぃー高いわね」
「そうだな。落ちたら絶対上がってこれないぞ」
モンちゃんと俺が谷のようになっている水路を見ていると、セシルが振り向く。
「立ち止まるんじゃない。警戒しつつ進むんだ」
「あ、ごめん」
俺は小走りでクシィたちの前に出る。
そして広間の中央に来た。ここは水路に囲まれているが、まだモンスターの姿は見えない。
(それにしても、すごいな。遺跡って感じだ)
壁には人工的な凹凸がって、宮殿のような柱も見える。
肩に乗ったモンちゃんが震えだす。
「く、来るわ……じゃあ、あとよろしく」
風の魔法で宙を飛び、モンちゃんがルナマリスのシスターベールの中に隠れた。
野生の勘なのか、こういうときのモンちゃんは鋭い。
ザザーンッ! ザザーッ! バザ――――――――ンッ!
水しぶきが上がったかと思うと、巨大なモンスターが谷のような水路から頭を出した。
ぬるりと出た黒く長い体にドラゴンのような頭をしたそいつは、大口を開けた。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
咆哮を上げるそいつを俺は鑑定スキルで調べた。
『
俺の鑑定スキルでは名前とレベルくらいしか見えなかった。
(毒の霧か?)
『ロア・フォードレス 職業降霊術師 ステータス レベル66 生命420 魔力370 物理攻撃力60→50、物理防御力120→100、魔法攻撃力300→250、魔法防御力360→300、俊敏性280。各属性耐性プラス10』
(いや、さっきルナマリスが強化してくれた分の数値が元に戻ってる)
俺がそう思ったところで、ルナマリスが緊張した声音で口を開く。
「
足元が明るく照らされ、聖域が構築された。その直後、身体が軽くなるような感じがした。瘴気の霧を聖域で中和したようだ。
確か瘴気は、上位の
「シャアアアアアアアアアアアアアアア!」
大口を開け、
(次回に続く)
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