第4話 タングとの再開
その日のお昼、みんなが俺の部屋に集まって話を聞いていた。
どうやら、カティの誘導と妨害工作でローレンス軍を混乱させたみたいで、タングたち援軍が到着した頃には撤退まで追い込んだそうだ。
部屋の窓の景色を見ると、既に彼らが持ち込んだ鉄の馬車のような乗り物が何台も常駐していて、ステンの私兵部隊が荷物を運んでいる。
その中に、大きな大砲やら武器やらを運んで設置してて着実に要塞と化している。
「今は、タングさんは会長たちと打合せしてるみたいだから、後で話そうだって」
イザベルは優雅に紅茶を飲みながら答える。こうして、自分の部屋に誰かを呼ぶのってなかなかなくて、心がソワソワする。
「ところで、フィンジャックって初恋の女の子とかっていますか?」
「り、リリアーナ嬢?!」
リリアーナの突拍子のない質問に、思わず紅茶を零しそうになった。
「いえ、私たちが貴方を看病していた時に『彼女に会いたい』『彼女の匂いがする』ってうわ言のように呟いていたの」
「え? 俺が?」
「ねぇ、どんな子なのですか?」
「私も気になるなぁ。この基地にいるの?」
リリアーナとイザベルが興味津々に聞いてて、俺はタジタジになっていた。
「え、何? 初恋のお話? 聞かせて……」
「え? フルトって恋バナに興味あるのか?」
さっきまでソファーで寝ていたフルトもゆっくりと起きて尋ねる。なんだよ、お前のキラキラした目は。
「うん! 俺、可愛いものや癒されるものが好き」
まさか、でまかせでカティに言った趣味が偶然当たるなって思わなかった。いや、思い返してみると、旅の道中で魔物うさぎを見て、一瞬躊躇して捌いていたような……。
「は、初恋と言ってもなぁ。会ったのは一回きりで名前も知らないんだ。……ただ、その子がかくれんぼで遊んでて木箱の中に隠れてたのが覚えてて」
「え、木箱?」
『フィンジャック、お前担当の匿名市民が予約注文した品が届いたぞ』
イザベルが怪訝な顔で聞き返したと同時に、俺を呼び出すと仲間の声が聞こえた。
俺が扉を開けて荷物を受け取ると、木箱だった。
「まいったな。すっかり忘れてた」
「フィンジャックさん。何ですか? この木箱」
「あぁ、俺が潜入調査でローレンスパーティーに加わる一ヶ月前に受けた依頼でな」
「な、中身って何ですか?!」
「ふふ。もしかして、お前の初恋相手がかくれんぼしてるかもな」
リリアーナとフルトが興味津々な表情で食いついてきた。
「リリアーナ嬢、人には知られたくない秘密の趣味があるんだぜ? ……でも、王国が乗っ取られた今となっては、依頼主の所在は分からんが」
さて、前金として報酬の半分は貰ったが、もう半分の報酬とこの木箱どうしようか。届け先は、シルヴァンディア王国の秘密通路。
そもそも依頼主は知らない。というか、知られたくないから匿名市民として俺に依頼された荷物だ。
ずっと置いておくわけにはいかないから処分するか?
ちょうど、協会はステンに明け渡したから秘密事項はあやふやになったし。
「どうした? イザベル」
イザベルがワクワクして木箱に近付いて、ラベルを確認したら無表情になった。
「この木箱の事よりも、恋バナの続きをしようよ」
「「えー、木箱が気になる」」
「フルトもリリアーナも知らない方がいい。だから、今すぐ燃やして忘れなさい。フィンジャック」
「イザベル、顔色が悪いけど大丈夫か? 額に冷や汗が――」
「リリアーナさんの恋バナ聞きたいなぁ」
あからさまな彼女の態度に、怪しさが漂っていた。イザベルが必死になって木箱から話題を逸らそうとするが、彼女が必死になればなるほどみんなが関心を示してて墓穴を掘っていく、
「……イザベル、こいつの中身知ってるのか?」
「わ、私は宮廷魔法使いよ。お、王の秘密を隠す義務がある」
「え? あの愛妻家の王に男色趣味が?」
「いや、違う!
いきなりイザベルが俺達ごと燃やし尽くそうとする炎の魔法を唱えた!?
咄嗟に俺が彼女を羽交い締めにして、フルトが杖を蹴飛ばして事なきを得た。
「い、いきなり何すんだ! 自分ごと俺達を焼き殺す気か?」
「は、離せ! 嫌だっ!!」
「まさか、依頼主がイザベルだったとな」
「や、やめて! 抱きしめないで!」
俺に羽交い締めにされて暴れていた。
こんな反応、初めてだ。
「あー……もう、おしまいだぁ」
木箱の表面が破壊されて中身が露わになると、すべてを絶望した顔になって俯く。
「これは……、絵画? なんでイザベルさんが動揺しているのですか?」
「リリアーナ嬢。これはカモフラージュ絵画で、仕掛けがあるんだよ」
フルトがイザベルを拘束魔法で縛り上げると、俺は木箱から丁寧に絵を取り出して解説した。奇跡的に、ほぼ無傷だ。
「一見すると、普通の男たちの集合絵に見えるだろ? この紐を引っ張ると、こう!」
額縁の隅の紐を引っ張ると、あら不思議。衣服を身にまとった男たちの絵から、屈強な男たちの裸体が出てきた。勿論、大事な所は湯気で隠してある。
「おぉ、エッチだ。特に鼠径部」
「こら、いけません! リリアーナさん」
リリアーナが呟くのと同時に、フルトが彼女の目を隠そうとする。だが、彼女はフルトの両腕をガシッと掴んで抵抗する。
「あぁぁ。うわぁぁ」
イザベルが両手を覆って赤面した顔を隠してて事態がカオスになっていく。
……イザベルの赤い顔を見て、俺の胸の奥がざわついた。
(この感覚、どこかで感じたような……?)
俺達の騒ぎを聞きつけたのか、外の廊下から誰かがドタドタと革靴で走る音がした。
「おい! フィンジャック! 起きたのか?! なんか、煙が……え?」
突然、部屋のドアが蹴破る勢いで開いたかと思ったら、タングだった。部屋の空気が一瞬、冷えた。
これまで音声越しでしか聞いていなかったが、久しぶりに見るとガタイが良くて綺麗だな。
身長百五十センチとドワーフにしては十センチ高くて筋肉質。髪はきっちりまとめたポニーテールで、顔立ちは精悍で”姉貴”感がある。
濃緑・濃紺・茶色をごちゃ混ぜに混ざった奇妙な柄の男物のズボンとシャツに、灰色のスカーフを巻いた姿だった。森の中に溶け込むような模様は、俺達にとって異質に感じた。
「心配して来たらこれか」
そんな彼女がドン引きした顔で、俺たちをまじまじと見ていた。
「ひ、久しぶりだな。タング」
「それよりも、状況を説明しろ。……その絵画はフィンジャンクの趣味か?」
「ちげぇよ、イザベルの私物だよ」
俺が一通り説明すると、タングは飽きれていた。
「……まるで子どもの喧嘩だな」
俺たちがきょとんとする中、彼女は眉を寄せて続ける。
「正直言って、人間の年齢や成長の早さは私には分かりにくい。十代でも大人扱いされたり、逆に二十を超えても子どもじみた者がいたりするだろう?」
「ま、まあ……そうかもしれんが」
「いい機会だから、教えておこうか。……お前たちもそこに座りなさい」
俺が先に座ると、みんながタングに従って座る。
タングはため息をついて腕を組んだ。
「性に関する知識は必要不可欠だ。誰かが正しく教えねば、間違った知識で大人になってしまう」
その口調は真剣そのものだった。
「え、ちょっ……! タングさん?!」
「まず、男にはチンポ、女には――」
タングの真剣な顔に気圧された俺、真面目な顔になるリリアーナ、頬を赤らめるフルトとイザベル。
こうして、タングによる性教育の授業は数日に分けて続いたのであった。
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