44. 衝撃
――ダッ!――
マンモスの霊体を霊界に送り返すと、イズミたちはアジトの建物に向かって再度走りだした。
戦いの中で建物から離れてしまっていたイズミたちだったが、京園寺や巫月のおかげで敵数が減っていたため、一直線に建物に向かえる。
この時点で、アニマの構成員で意識が残っているのは、もう数人ほどしかいなかった。
建物に向かう途中で赤星も合流する。
「よし、突入するぞっ」
建物の玄関近くまで来ると、赤星がイズミに声をかけた。しかし、すぐに義経がこれを止める。
『待てっ! 戻れっ!!』
義経がそう言った瞬間、建物の二階内部から、巨大な閃光が外に向かって突出した。
――ギャキィィィィィーーーーーーーンッ!!!!!!――
その形からして、まるで極大の刀剣が建物から飛び出したようである。
――ズガガガガガガガッッッッッッッッ!!!!――
光の刀剣は、そのままドーム型の建物を水平に切り裂いていく。
「何だ!? このでかい建物が真っ二つに斬られてくぞっ」
赤星が叫ぶのと同時に、建物が崩れ始めた。
「やばいぜっ」
「一旦建物から離れるぞっ」
イズミたちは、急ぎ建物とは逆方向に走りだす。
――ガラガラガラガラァッッッッ――
後方から聞こえてくる崩落音が、まるで追いかけてきているようであった。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォ――
巨大なドーム屋根に積もった雪と共に、建物の上部がみるみる崩落していく。それに伴い、建物を構成する鉄骨や石材がぶつかり合い、轟音が辺りに響き渡った。
「走れ走れ走れーっ」
叫ぶ赤星と共に、イズミたちは敷地の端に向かって走り続ける。
『ギャオォォォォーーーーーーーーン!!!!』
そんな中、建物の内部から何かの生物の咆哮が聞こえてきた。
「はあっ、はあっ。イズミ、いまの聞いたかっ?」
「ああっ」
イズミにも赤星にもそれが何の声なのか判別できない。
――ゴゴォォォォーーーーンッッッッ!!!!――
それから、ものの数秒で建物は半壊した。
「いったい何が起きやがったんだ……」
赤星が呟くと、それに義経が答える。
『あの瞬間、巨大な魂力を感じた。何者かは分からないが、この崩落の原因はそいつだ』
「もしかして、あいつが言ってた頭目の守護霊ってのの仕業っすかね? だとしたら、自分のアジトを崩壊させる意味が分かんねえ」
話している間に、巻き上がった土埃の中から建物の内部が見えてきた。
――ゴゴゴゴゴゴォォ……――
そこに、霊能者にしか見えないものが現れる。
「おい、あれってやっぱり……」
赤星が指差した先に見えたのは、恐竜の霊体であった。
ギガノトサウルス、そう呼ばれる大型の恐竜が
「でかっ! あれが恐竜の守護霊ってやつか!? さっきの鳴き声の主はあいつだったんだなっ」
赤星が話していると、そこに京園寺と巫月も集合してきた。
「はあっ、はあっ。あれと戦うしかないんですね。でも、あの守護霊さっきから全く動いて……ひっ!」
巫月が「動いてませんね」と言おうとした瞬間、恐竜の上半身が動いた。正確に言うと、上半身がずるずると下半身から滑り落ちていく。
――ズルズルズル……ドオォォォォンッ……――
そのまま下半身を残して、上半身だけが地面に転げ落ちた。
「えっ!!!!」
「何だっ!?」
巫月と赤星が同時に声を上げる。
「これは……あの守護霊……斬られたのかっ。いったい何が起きている!?」
京園寺が混乱の言葉を口にした。
(何だ!? 鳥肌が立つような魂力があの近辺から発せられている。さっきの巨大な魂力は、あの恐竜のものではなかったのかっ?)
この状況に義経も驚いている。それもそのはずで、現世に限っていえば、ここまで大きな魂力を義経は感じたことがなかった。
(確かめる方法は、一つしかないな)
義経が意を決してイズミに声をかける。
『イズミ、あそこに向かうぞっ』
イズミが「ああ」と答えるのと同時に、二人は瓦礫となった建物に向かって走りだした。
「ちょっと待ってっ。危ないですよ、イズミさんっ!」
巫月が声をかけるが、イズミたちにはもう聞こえていない。
「あの二人なら大丈夫だ、巫月。俺たちも残りの構成員を片付けたらすぐに向かうぞ。赤星、手伝ってくれっ」
京園寺が声をかけると、巫月は頷き、赤星は「おうっ」と答えた。
「それにしても、この強い魂力、どこかで感じたことがある……」
京園寺が顎に手を当て、ぽつりと呟く。
「……! まさかっ!!」
京園寺は、突然何かを思い出し、イズミたちが走っていった瓦礫のほうに目を向けた。
――ダッ――
イズミたちが瓦礫の中に飛び込むと、すぐに仰向けに倒れている男が見えた。
この男こそ、今回のMISTの最重要ターゲットでありアニマの頭目である甲斐万三郎である。阿形たちが持ち帰った情報から、MISTは甲斐の顔から身長まで全てを把握していた。
「……」
甲斐は、まだ息があるようだったが、意識はない。
通常であれば、この最重要ターゲットにイズミと義経の意識が向かうはずなのだが、二人の意識は、すぐにそこにいた別の男に向けられた。
その男は、こちらに背を向けて立ち、甲斐を見下ろしている。
――フオォォォォーン――
イズミたちが姿を現した途端に消え去ったが、その瞬間まで男が守護霊を出していたのが二人には分かった。
微かに見えただけだったが、その守護霊は人の霊体であり、長尺の刀を握っていた。
イズミたちの存在に気づくと、男は肩越しに振り向き、横目で二人を見据える。しかし、すぐに何事もなかったように視線を戻した。
このイズミが経験したことがないほど強い魂力を纏った男は、黒いコートの下に喪服を着ているが、MISTの者ではない。
『……イズミ』
「ああ」
イズミと義経には、すぐにこの男が何者か分かった。
灰色の瓦礫の中で、その男の髪色が際立っている。
「銀髪の……霊能者」
そこにいたのは、常勝の怪物といわれる男であった。
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