No.007 / RPGのような
所沢先生の野外レクチャーを終えて解放されたメバエは、セキやアカシと別れて、ひとりクジラ図書館へ訪れていた。
時刻は十六時。
あらかじめ知らされている学生寮の入浴や夕食の時間にはまだまだ時間があった。
学生証をゲートにかざして入館すると、メバエはさっそく検索用の装置で、幽世ランドの歴史について調べ始めた。
最初に配られたパンフレットにも書いてあったが、ここ幽世ランドで配られるスマホは、現実世界のインターネットにはつながっていない。
あらゆる調べものは、ここ、幽世図書館、通称クジラ図書館で調べることになる。
それが、娯楽施設である幽世ランドが持つひとつの不便という名のエンターテインメントでもあるらしかった。
メバエは、案内に従って該当する本棚にたどり着くと、目的の書籍をいくつか選び出し、近くにある机の上に積み上げ始めた。
十分に資料を集めると椅子に座り、書籍の山を前に、そのうちの一つ、巻物を模した和式の書籍を広げた。
現在が2380年。
書籍によると、今から約百年前の2284年に、コールドスリープの実用が開始されている。
所沢先生の説明によると、私たちはこの頃に眠りについている。
それから約40年後の2321年に、コールドスリープ中の人間を、バーチャル世界でよみがえらせることに成功している。
更に約20年後の2343年には、バーチャル世界内で、スリーパーによる反乱が起きている。これは「岩井の乱」と呼ばれている。
岩井の乱以降、スリーパーを目覚めさせる前に、その性格を現実世界に適用できるほど穏やかなものにすべく、「世代間教育」なるものが為されるようになった。
これはスリープ中に、世代間格差を埋めるべく、格差となる時代を追体験させるというものらしい。
当然、スリーパーであるメバエも、眠っている間に、この世代間教育なるものを施されているわけだ。
なるほど。
だから百年後の人間が話している言葉が難なく理解できるというわけね。
メバエは膝を打った。
現実世界からの訪問者向けの娯楽施設として、幽世ランドがオープンしたのが2355年。
さらにその幽世ランド内に、スリーパーたちの教育機関である幽世学園が開校したのが2370年、つまり今から10年前。
なるほどね、大体、流れがつかめたわ。
書籍を五つほど読み込んだ後、メバエはふぅと息を吐いて天を仰いだ。
なんだか、気分としてはRPGの中にいるみたい。
でも調べた限り、この世界に魔物や魔王はいないみたい。
であれば、せいぜいレベル上げを楽しむくらいしかすることはないか。
メバエは右手を開いて、そしてゆっくりと閉じてみる。
ここが私の現実――。
私はここで生きていくんだわ。
静かな闘志がふつふつとメバエの内側から湧いてきていた。
メバエの頭の中で、所沢の野外レクチャーの内容と、先ほど調べたばかりの幽世ランドの歴史についての文章が、一緒になっていつまでもぐるぐるとまわっていた。
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