No.005 / 幽世大滝
クジラ図書館の芝生の上でくつろいでいるところへ、ピロリン、と三人のスマホが鳴った。
メバエたちが確認すると、そこには、十三時から学園の野外レクチャーがあるということ、そしてそれが幽世ランド本島の大滝前で行われるという学園からのメッセージが届いていた。
「わぁっ!本島の大滝に行く口実ができましたね!」
アカシが喜びを露わにする。
「楽しみだね、私も間近で見たかったんだー」
「私も私も!」
とメバエとセキも賛同を示した。
それから三人はスマホでゴンドラのタクシーを呼んで、幽世ランド本島へと向かった。
空に浮かぶ巨大な本島は、ゴンドラが近づくにつれ更に巨大になり、その圧巻の光景に、メバエたち三人は、例によって歓声やため息を生じるのだった。
本島中央に位置する巨大な和風建築の大屋根の真上から、大量の水が島の外へ向かい噴き出している。
その大滝の放物線の内側にあるのが、大滝前の広場であった。
メバエたちが到着すると、時間がまだ早かったのか、学園の生徒らしき人間は一人も見当たらず、代わりに現実世界からの訪問者と思しき様々な身なりをした生き物が広場いっぱいにひしめいていた。
「わぁ、すごい人だね」
メバエはそう言ってきょろきょろとあたりを見まわす。
「私たちも記念撮影しましょうよ」
セキの提案に、三人は人込みを押しのけ、大滝に一番近い場所で記念撮影をはじめた。
見ると周囲には、猫耳猫尾の若い人型の男女、宙に浮かぶ白いおばけ、大きな熊のぬいぐるみ、見上げるような背の高いピエロなど、本当に様々な恰好をした人々がいた。
そんな中にあって、メバエは自然と心拍数が上がり、頬が高揚してくるのを感じていた。
記念撮影を終えて人込みから離れた場所で時間を潰していると、一人の学園生徒が三人に近づいてきた。
「あのぅ、僕も一緒にここで待ってていいでしょうか」
大きな猫のような目と、それを覆うような大量の癖のある髪の毛が特徴的な少年である。
「あなたは、確か出席番号七番の、シュゴ・エンゴさん」
メバエがそう、口にした。
「げ、メバエ、あんたもしかして全員の顔と名前、さらに出席番号まで一致してんの?」
セキはメバエを珍獣を見るような目つきで見やった。
「うん、まぁね」
当のメバエは気にしていないふうである。
「どうぞ下の名前で呼んでください」
そう本人が言うので、「じゃあ、エンゴ君で」とメバエの一言で目の前の少年の呼び名が決まった。
とそこで、ピロリン、と四人のスマホが鳴った。
13時10分前を告げるお知らせだった。
「野外レクチャーって、具体的に何するんでしょうね」
エンゴが誰にともなく尋ねる。
「さぁ、始まってみなきゃ分かんないわよ」
とぶっきらぼうに答えるのはセキである。
「楽しみですね」
フォローのようにアカシが言うと、メバエも「楽しみね」と言葉を重ねた。
やがてクラス萌黄のメンバー全員が顔をそろえると、そこへ二十代と思しき若いミニスカート姿の女性が現れた。
「はじめまして、私は所沢唯。これから2年間、あなたたちクラス萌黄を担当するわ。所沢先生って読んでね」
女性はそう告げると、指示棒を伸ばし、全員の顔にまんべんなく目をやった。
「それではまず、大滝の音が邪魔になるので、みなさんヘッドセットを装着してください。スマホのメニューを開くと項目が出てくるはずです」
所沢先生の指示に従い、スマホを操作すると、目と耳を黒くて薄い帯が覆った。
「では、野外レクチャーを始めます」
ヘッドセットの内側に、所沢先生の涼やかな声が響いた。
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