第2話 穴熊の子 コアッキー

僕の名前はコアッキー。まだ小さくて、好奇心いっぱいの穴熊の子だよ。

生まれたのは、誰も住んでいない古いお家の、静かで暗い床下でした。

そこが僕たちの「おうち」でした。


僕が生まれたばかりの頃は、お父さんが毎日、せっせと美味しい食べ物を運んできてくれていました。

お母さんのおっぱいがたくさん出るようにって!


少し大きくなって自分で食べられるようになると、お父さんはびっくりするくらいあま~いメロンやスイカという食べ物をくれました。

メロンとスイカ!それはそれは、とろけるようなごちそうでした。


ところがある朝のこと。

いつものように「ごはん、まだかな?」って待っていたのに、お父さんが帰ってきません。


お母さんが「コアッキー、ここで静かに待っていてね」と言って、

心配そうに外へ出て行きました。


しばらくして、お母さんが帰ってきました。

差し出したのは、小さな虫やミミズでした。


「お母さん、僕、あの甘いメロンが食べたいよ!メロンは?」


お母さんは悲しそうに、小さな声で言いました。


「もう、お父さんは帰って来れなくなったのよ…」


僕の胸が「キュッ」と痛くなりました。


「これからは、私が食べ物を採ってくるからね。あなたは、おとなしく一人で、おうち(巣穴)でお留守番していてね」

それからしばらくの間、僕とお母さんは二人きりで、巣穴で寄り添って暮らしました。


お母さんは、僕に色々なことを一生懸命に教えてくれました。


「いいかい、コアッキー。こうやって土を掘るんだよ」


「ミミズは、こうやって捕まえるんだ」


「ネズミやモグラだって、美味しいごちそうになるんだからね」


ある夜、お母さんは真剣な顔をして言いました。


「さあ、今日は少し遠い場所にある食べ物の採り方を教えますよ。

付いておいで!」


初めて見る外の世界は、何もかもが目新しくて、ドキドキしました。特に、

道路の脇にある、屋根がついている長い通路は、なんだか緊張しました。


しばらく歩くと、そこは、とっても広い「畑」と呼ばれる場所でした。


「ここよ、コアッキー。ここで、あなたの好きなスイカが採れるのよ」


「えっ!ここが?」


「でもね、油断しちゃダメよ!あれをご覧」


お母さんが指さした先には、大きな箱があって、中には真っ赤なスイカが入っています。

「やったー!」と僕が飛びつこうとすると、

お母さんが「ぴしゃり!」と僕を止めました。


「これは絶対に採ってはいけないわ!これは『ワナ』といって、入ったら出られなくなる恐ろしいものなのよ!」


よく意味は分からなかったけど、お母さんの言うことには従いました。


「それから、あの屋根付の通路を出る時は、特に用心しなさい。」

「目玉が明るく光って、突進してくる恐ろしい化け物が来る時があるからね!」


その日から、毎晩、お母さんと二人で食べ物を探すお散歩が始まりました。


「ワン!ワン!」と、うるさく吠えて、なんだか臭い、大嫌いな犬にも時々出会ったけれど、それ以外は楽しく、色々なことを学びました。


ある夜。お母さんと僕が別々の場所で食べ物を探している時でした。

遠くの方から、「キィーィ!ドスン!」

と、ものすごい音が聞こえてきました。


恐る恐る、音のした方へ様子を見に行くと、あの屋根のある通路の出口のあたりが、まぶしいくらいに明るく光っています。


あの「化け物」が照らす光の先に、

お母さんが……じっと、動かなくなっていました。


「お母さーん!」


僕は飛び出そうとしましたが、その時、「ダメッ!来てはいけない!」と、

お父さんとお母さんの声が、どこからか聞こえたような気がしました。




僕の名前はコアッキー「穴熊の子」です。


今日から僕は、一人ぼっち。


でも、お母さんが教えてくれたことを全部守って、

このセット(おうち)を守って、一人で強く生きていくんだ!


おしまい

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読んでいただきありがとうございました。


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