コールドスリープから目覚めたら、剣と魔法が「未来の常識」でした

たくみさん

第一章 目覚め

1:目覚めた身体と、世界の異変

 ハイブリッド型筋ジストロフィー。それは、筋肉の機能が徐々に低下し、やがて神経伝達をも蝕む進行性の難病だった。


 もう、全てが限界だった。ベッドの上で、自分の体が徐々に石化していくような感覚。進行を遅らせる薬も、オカルト的な試みも、金銭的な限界と共に尽きていた。俺の人生は、ただという名の終点に向かって、緩やかに滑り落ちていくだけだった。


 そんな絶望の淵で、ある研究所から声がかかった。「実験段階の冷凍催眠の被験者」。成功すれば、治療法が確立される未来まで眠り続けることができる。金銭的な保証もつく。


 俺は迷わず、その希望に望みをかけた。


 巨大な研究所の地下。俺は冷たいカプセルの中で思いを馳せる。最低でも十年の契約。この難病が治療可能な未来が、どうか訪れてほしいと、ただそれだけを願って目を瞑った。


 再び目を開けた時、周囲の様子は一変していた。


 冷凍カプセルの内部に満ちていたはずの無機質な機械の駆動音と、鼻を刺す消毒薬の冷たい匂いは、跡形もなく消え失せていた。


 代わりに俺の鼻腔をくすぐったのは、澄んだ空気と、かすかな乾燥した薬草の清涼な香りだった。建物の外からは、聞いたことのない鳥の優しいさえずりと、心地よい風の音が聞こえてくる。


「あぁ、よかった……目を覚まされたのね」


 心が落ち着くような、慈愛に満ちた声だった。


 上から覗き込んできたのは、白いローブを纏った見知らぬ女性の顔だった。年齢は二十歳前後だろうか。その瞳は澄んだ水のように美しく、額の中央には、琥珀のような小さな宝石が埋め込まれていた。その姿は、異国の世界の住人と感じる容姿であり、アニメの世界の住人を思わせた。


と名乗った彼女を見て、反射的に言葉が出た。


「ここは何処ですか?……今は西暦何年ですか?」


 俺は冷凍睡眠に入ったのだ。せいぜい数十年、よくて数百年の未来だろう。


「ここは、私が営む小さな診療所です。貴方は遺跡の奥にある聖なる泉の畔で、衰弱した状態で発見しました。」


 ルナは落ち着いた声で、だが少し困惑したように答える。


「西暦……は、残念ながら分からないけど、この世界では聖導暦(せいどうれき)2322年ですよ」


 聖導暦。聞いたこともない年号だ。しかも「2322年」という数字は…年号が変わって2000年以上経ったのか…?そんな馬鹿な…。


(まさか、俺の知る世界は滅びたのか?それとも……)


 俺の心臓は、この圧倒的な世界の異変に直面しても、なぜか脈打たなかった。まるで、映画の設定を聞いているかのような、異様なほど冷静な自分がいた。


 自分の置かれた状況の真偽を確かめたくなった。


「すいません。鏡ってありますか?」


 ルナは、古びた手鏡を俺に手渡してくれた。


 そこに写った姿は、がりがりにやせ細った、見慣れた自分の顔だった。ただ、病に苦しんでいた時の、影の濃い絶望の表情は消え失せていた。


 そして、それよりも重要な事実に気づいた。


「これは現実なのか……?」


 俺は、今、鏡を自分の手で受け取った。


 冷凍睡眠に入る直前、ほぼ寝たきりの状態で、指先を動かすことすら叶わなかったのだ。重力に逆らって、物を掴むなんて、絶対に不可能だった。


「ルナさん、俺を発見した時、どんな状態でしたか?」


「先日、私は遺跡の中にある泉の水と薬草を取りに行っていました。貴方はそのに倒れていました。体は衰弱していましたが、聖なる泉の水の力で、貴方の命は守られていたのだと思います」


 ルナは穏やかにそう語る。遺跡の泉の水は、聖水と呼ばれ、診療所で使う治療薬の材料にもなっているそうだ。


 冷凍睡眠は最低でも十年。だが、俺が今いる世界は、俺の世界とは明らかに違う。


(うん。これは、夢だ。でなければ、異世界転生!)


 難病が治っているかもしれないという奇跡よりも、世界のルールが変わっているという、非現実的な結論の方が、俺の心にはピタリと嵌るのだった。


「あの、すいません……」


 俺が一人で納得していたら、ルナが遠慮がちに問いかけてきた。


「お名前、お伺いしてもよろしいですか?」



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初めて書いたラノベです。

温かい目で見ていただければ幸いです。




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