英雄万歳
彼女たちの姿がよく見えるようにと、
広場のあちこちには鏡が置いてある。
たとえ中央にいる彼女たちを
目視できないとしても、
その鏡を見れば彼女たちが見れる。
だから、この街にいる全ての人間が
彼女たちのその姿を目撃していた。
「お主らは何も変わっておらんな。
あの頃から、何も……。」
それはこの世界の礼儀において
最も敬意と誠意を示すものであった。
右手は胸に、左手はお腹に添えて
左の膝を地面につけ、
頭の先が見えるまでに頭を下げる。
男も女も関係なく、
その行動は平等に尊く扱われる。
「……。」
人々はその姿に心を奪われた。
たった4人で戦争を終わらせて
世界を復興に導いた程の存在が、
一般人である自分たちに頭を下げている。
それも最大限の敬意を込めて。
力づくで無理矢理にでも
従わせることが可能でありながら、
対等な人間として頭を下げている。
そして、彼女たちのその行動の意味を
理解できない程、彼らは馬鹿ではなかった。
「なぁ、あんたこの街の人間だろ?
あの子たちは一体何なんだ?」
「何って、見たまま聞いたままさ。
誰よりも才能を持ちながら
故郷のために頭を下げることができる、
俺たちにとって自慢の娘たちだ。」
今はまだ、戦争の余波によって
人々の心は不安定になっている。
そこへ戦争を終わらせた本人である
彼女たちが頭を下げることで、
向くべき方向を一つに絞る。
街を復興するために力を貸せと
ただ懇願しているのではなく、
負の連鎖を断ち切って
皆の心を一つにするために頭を下げている。
割り切れない気持ちがあるなら、
自分たちにぶつけてもらっても構わない。
彼女たちはそう言っているのだ。
「…おいお前ら!歳下の娘たちに
どこまでカッコつけさせる気だ!
戦争を止めて疲れてるくせに
俺たちの小競り合いまで止めて
調子に乗ってもいい立場なのに、
頭下げて頼んでる彼女たちを見て
大人として恥ずかしくないのか!
たとえ気に食わないことがあったとしても、
それを腹の中に飲み込んで
次は俺たちがあの子たちを救う番だろう!
違うか!馬鹿野郎共!」
困惑していた人々の中で、
一人の男が声をあげた。
右手の拳を高く振り上げて、
彼女たちの勇姿を無駄にすべきではないと
大人としての生き様を叫んだ。
当然その声は彼女たちの所まで届き、
マリアは僅かな涙を零した。
「……パパ…っ。」
声をあげたのはマリアの父親だった。
顔を下に向けていても声だけで分かる。
そしてその声に覚えがあるのは
マリアだけではなかった。
もはや人間離れしていた才能を
持っていた彼女たちが
街で異質な扱いを受けることなく、
街の誇りとして大切にされてきたのは
彼らのような大人がいたからだった。
「そうだ!私たちが頑張らずに、
誰がこの街を復興させるというのだ!
今こそ、団結して立ち上がる時だ!」
彼女たちが才能に溢れていながら
他人への思いやりを持って
向上心を高く抱いていられたのも、
いい親に恵まれていたからだ。
「この街を救うのは俺たちだ!
英雄を守り抜くのは俺たちだ!」
帝国から存在抹消の命令が出た時も、
真っ先に帝国に抗議してくれた。
危険な森を抜けて、直接エードスの元へ
行って抗議してくれた。
結果としては何も変わらなかったが、
マリアだけでなくクレアやマーシャたちが
笑顔を保っていられたのは
間違いなく彼らのおかげだ。
「そ、そうだよな……。
争ってても仕方ないもんな。」
「英雄たちの力になれるなら、
私も頑張ってみようかしら…。」
少しずつ広がっていく感情の波。
それは負の感情ではなく、
彼女たち英雄のために力を合わせようと
互いの手を取り合う優しい感情であった。
争うのはもう終わり。
これからは彼女たちのために
精一杯生きていくべきだ。
「ベオムールの英雄、万歳!」
「ベオムールの英雄、万歳!」
気がつけば人々の心は一つになっていた。
彼女たちが顔を上げて立ち上がっても、
その大きな歓声は鳴り止まない。
約2万人の大歓声だ。
瓦礫の山となった街の中で飽和して、
永遠に終わらないのではないかと
思える程に響いていた。
――――――――――――――――――――
魔族との戦争が終わってから約100年。
以前よりも発展したベオムールの街は
毎日たくさんの笑顔に溢れていた。
4人の天才によって作られた基盤は
更なる飛躍と進化を遂げ、
今や世界のどこよりも発展している。
そして、その躍進に大いに貢献し、
今後も後世に語られ続けるであろう
彼女たちの最期に立ち会ったのは、
一体のロボットだけであった。
彼の名前はセヴァルと言い、
彼女たちの技術の結晶でできている。
「……ベオムールは任せろ。
必ず私が守り抜いてみせる。」
4人の伝説の死は世界を震撼させ、
人々は悲しみの涙で溢れた。
だが、彼女たちが残した物は
今もこの先もずっと受け継がれ、
永遠とも言える時を越えるだろう。
何の確証もないことではあるが、
人々はそう思わずにはいられなかった。
そして、それは200年という時が過ぎても
変わらないことであった。
「ある程度予想はしていたが、
まさか再び魔族がこの街に来ようとはな。
魔王とは不可侵の契約を交わしたはずだが、
あいつはもう死んだのか?」
セヴァルがやってきたのは
ベオムールの南の小高い山の中、
彼女たちが眠る石碑がある場所だ。
街の人間はここを神聖な地として
200年以上も拝み祈ってきた。
普段の手入れはセヴァルが一人で
毎日行っているだけに
ここへ来る人間はほとんどいないが、
今はセヴァルともう一人、
この街の人間ではない存在がいる。
「魔王様はまだご健在だ。
だが、俺がここにいるのは
魔王様からの命令ではない。」
彼は頭に被っていたフードを脱ぐ。
その見た目はただの人間だが、
彼の周囲に禍々しい力が溢れ始めると、
額からは一本の角が生えて
皮膚の色は赤黒く変わってしまった。
──彼は正真正銘の魔族であった。
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