第三話:対決!アイアン・クイーン

 職員室の緊張感は、朝の突風よりも、ゴスロリおばさんの怒鳴り声よりも、俺の心を凍り付かせた。


 職員室に連行された俺は、桧山先生の机の隣で、ひたすらプリントの山をホチキスで綴じていた。

 先生の異名は『鉄仮面』、あるいは『アイアン・クイーン』。33歳という若さながら、この学校で生徒指導を務めている冷静沈着を絵にかいたような人物。その眉一つ動かさない表情は、まるで感情という機能が故障しているかのようだ。


 ひっつめ髪に分厚い眼鏡。服装はいつも完璧なパンツスーツ姿だ。華奢な体躯だがスタイルはスリムで、その隙のなさからか、逆に恐ろしさが際立つ。話し方は常に丁寧な口調だが、その冷徹さは昔テレビで放映されていた『女●の教室』に登場する、あの鬼教師を思わせる。


 俺の背中には、緊張のあまり冷たい汗が伝っていた。「ラッキースケベ発生装置」なんて買ったのがバレたら、どんな罰則が待っているか想像もつかない。

 とにかく、一時間目が始まるまでの間は、この指導と言う名の雑用手伝いを黙々とこなすしかなさそうだ。


「上部君、そこの分類は済んだかしら。では、こちらの資料を奥の本棚に戻しておいて」


 桧山先生はそう言って、自身の机の横にある小さな本棚を指差した。俺は言われた通り、分厚い資料の束を抱えて本棚へと向かう。

 その瞬間、桧山先生も何かを探していたのか、俺が立っているすぐ隣、本棚の上部に手を伸ばした。


「うっ…!」


 華奢な体躯では、背伸びをして本棚の上段に手を伸ばすのは少々無理があったらしい。先生の足が無造作に置かれていたパイプ椅子に引っかかった。


 ガタンッ!


 バランスを崩した桧山先生の体が、そのまま俺に向かって倒れ込んできた。反射的に両腕を前に出した俺は、それ以上の防御の姿勢を取ることもできない。


 ドサッ…


 確実に、先生の胸が俺の手の中に飛び込んできた。しっかりとした上質なスーツの上からでも伝わる、女性特有の柔らかい感触。鉄仮面の冷たさからは想像もつかない生身の暖かさ。

 掌から少し零れる程よい大きさは、世の男子にすればまさに「ご褒美おっぱい」だ。


「ふぬあっ!?」


 一瞬にして俺の脳内は白く光り、爆発した。


 さっきまでの緊張感はどこへやら、俺の心の中は、喜びと興奮の弾幕祭りと化した!


『( ゚∀゚)o彡°おっぱい!おっぱい!』


『キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』


『OPI!!OPI!!!』


『これが!ラッキースケベの完成形!!』


『チーッチチッチーうぉっぱーい♪ボインボイ~ン♪』


『お母さん、生んでくれてありがとう!』


『くぁwせdrftgyふじこlp;』


 興奮しすぎて、もはや日本語の原型すら留めていない。視界に太もも3秒とはわけが違う、これは接触案件だ!しかも相手はあのクイーン桧山!


「…ごめんなさい、上部君。大丈夫かしら?」


 俺が内心で狂喜乱舞している間に、桧山先生は素早く体勢を立て直し、何事もなかったかのように冷静な声で言った。顔は少し赤らんでいるように見えたが、眼鏡の奥の目はすぐに平静を取り戻した。


「あ、は、はい。だ、大丈夫です!」


 俺は棒立ちで答えるのが精一杯だった。


「では、続きをお願い。次は体育館倉庫の鍵を教頭先生に返してきてちょうだい」


 先生は再び鉄仮面に戻り、俺に次の雑用を命じた。

 

 一時間目開始5分前、漸く雑用から解放された俺は、混乱と歓喜が入り混じったまま、ふらふらと職員室を後にした。


『ラッキースケベ発生装置』…これは本物だ!


 しかし、冷静になって考えると、朝はゴスロリおばさんの怒り、下駄箱では3秒で退場。そして今は、緊張感MAXの職員室での接触。喜びは大きいが、毎回リスクも尋常じゃない。


…残りの2日間、俺のライフとメンタルは持つだろうか。


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