守り人

のき

第1話

 朝から降り出した雪はどんどんと激しさを増し、夕方を過ぎたころには前も見えないほどの吹雪へと姿を変えた。

スマートフォンが暴風雪警報を鳴らしている。

 それなりに賑わっていた図書館の利用者も急ぐように帰っていく。

普段ならもっと混みあっている時間帯なのに閑散とした空間はどこかさみしそうに見えた。

 返却ポストにたまっていた本がカウンターにどさりと届く。

みんな車を降りずにポストインして急いで家路へと向かっているのだろう。

その中の一冊を手にしたスタッフが声を潜めて呟いた。

「そういえば、出るっていう噂を聞いたんですけど……」

 手にしているのは郷土の怪談を集めた本だった。

おどろおどろしい表紙が恐怖心を煽っている。

 密やかな声にその場にいたスタッフたちは手を止めた。

「出る、って」

「ここ」

 手を胸の前でダランと垂らしおなじみのポーズをしてみせると、ひゅっと息をのむ音がした。

 一番若いスタッフが怯えたように身を縮ませている。

「やめてくださいよ……」

 だけど、怖いと思いつつ怪談話は人を惹きつける。

「まじですか」

「いや、でも確かに……」

 詳しく聞こうとみんなが身を乗り出した。

「聞いた話なんだけどね」

 満を持したのかぐるりと周りに視線を送ると、声を潜めて話を続けた。

「ここって昔防空壕だったんだって。逃げ惑う人たちを追いかけてきた敵兵が爆弾を投げ入れてたくさんの人が亡くなったみたいでさ……夜な夜な苦し気なうめき声がどこからか……」

 カウンター業務をこなしていた僕の耳にまで入ってくる噂話。

 数人が顔を突き合わせ、真剣な表情で話にのめり込んでいる。

 僕は小さく息をつくとすみっこに集まってヒソヒソと話している輪に入った。

「はい、そこまで」

 呆れたような声色におしゃべりがピタリと止まった。


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