[BL]Switch

真白透夜@山羊座文学

高橋と藤井と晶彦

「今日、うちに泊まるだろ?」


 と高橋課長に言われて慄いた。そうか、今日は金曜日。そういう習慣だったのか。

 断りたい。いくら身体は藤井でも、中身は俺、晶彦なのだから。お泊まりとなれば二人のラブラブタイムが始まるは免れないだろう。高橋課長は厳しくて怖いが嫌いではない。嫌いではないが、恋愛的には全く好きではない。イケメンだからまだいいか、とはならない。俺は性別を超えられない。


「すみません、今日、体調悪くて……」


「じゃあ、なおさらうちにくればいいだろ。一人じゃ心配だ」


 やさしい……!? 俺が彼女にフラれたのは、体調が悪い彼女の脇でずっとゲームをしてたから。だって、それ以外することないじゃん。何怒ってんだよ、って思ってたけど……。いやいや、今はそれどころじゃない。高橋課長の恋人、藤井として二人きりになるのを避けたい。でももう断り文句が思いつかない。仕事が忙しくて……は、課長には通用しないし、どうしよう!


 物陰から視線を感じた。そこにいたのは俺。正しくは俺と中身が入れ替わってしまった藤井。泣きそうな顔でこちらを見ている。俺、あんな顔するんだ。やだなあ、自分のそんな顔を見るなんて。月曜日に入れ替わってから五日目。男同士だったからまだなんとかなったけど、まさか課長と付き合ってたとはね……。ええと、あの表情からすると「身体は自分でも中身が違うなら辞めてくれ」ってことだよね。俺もそう思う。


「今日は、宅配も来るんですよね……。明日、だとどうですか?」


 明日に引き延ばしつつ、音信不通にして誤魔化そう。


「……俺と宅配、どっちが大事なんだよ」


 そんなマンガみたいなセリフ……?! しかもシゴデキ鬼課長から?! まずい、これはもう正直に言った方が良いのでは。


 入れ替わりがあった直後、藤井からカミングアウトを受けて、一旦はそうしようと話はまとまったのだが、その時抱えていた仕事がたまたまお互い代わりにやるのが好都合で一週間経ってしまった。まあ、理由はそれだけじゃなくて、見た目が藤井だと鬼の課長が優しくしてくれることに俺が甘えていたところはある。普段の俺にも優しくしてほしい。いつもゴミを見るような目で見てくるから。


「宅配は再配達なんで、何度も受け取り損ねるのは申し訳なくて……」


「そっか。お前らしいな」


 うん。藤井は優しい奴だ。二人が付き合っているときいた時は驚いたけど、納得はした。高橋課長は藤井をひいきしていない。正当な評価の元に、藤井を大切にしている。


「じゃあ、明日。何時にする?」


「……お昼頃からで」


 早速予定を決められてしまった。それはそうか。仕方ない、具合が悪くて寝過ごしたことにしよう。ちょっと申し訳ないけど。


 と思って課長を見ると、なんだか寂しそう……に見える。あんなこと言うくらいだから、本当に寂しいんだろう。うん。


 と思っていたら、急に課長は何かを閃いた顔をした。


「俺が、今からお前の家に行って泊まればいいのか」


 全て解決した!? いや! 一番の問題が深刻になったよ! 俺たちは家は交換していない。互いに一人暮らしだから各々の家に帰っているのだ。万事休す!


 そこに俺がやってきた。そりゃそうだ。もうこうなったら言うしかない。課長は驚いて藤井の身体から距離をとった。


「あの、もう全部話した方がいいですよね……」


 と藤井が言って、俺は頷いた。


「高橋課長、私と晶彦さんは体が入れ替わっているんです。月曜日、二人とも体調不良で休んだでしょう? あの日、私たちはたまたま同じ時間に、同じ病院に行きました。私は今流行りの新型ウイルスの感染、晶彦さんは胃腸炎だってことで、薬をもらいました。二人で薬局で待っていたら大きな地震が起こり、私の液体の薬がカウンターから落ち、晶彦さんは手を滑らせて薬を落とし、二つの薬が混ざってしまったんです。そのとき発生した煙を吸ったら体が入れ替わってしまって……」


 課長は険しい顔で話を聞いている。そんなことがあるのか。昔読んだ少女マンガにはあったが。


「だから……元に戻るまでは……そういうことで……」


 目の前にモジモジする俺がいる。


「なんか変だとは思ってたんだ。急に晶彦の仕事ぶりが丁寧になってるし、藤井の方は態度がそっけないから……。嫌われたのかと思ってた……」


 課長! 乙女だな! なんか無駄に申し訳なかった。


「私が課長を嫌いになるわけないじゃないですか……!」


 見つめ合う二人。やめて。俺の見た目と声でそれはやめて。


――その後、藤井の身体からウイルスが完全にいなくなると共に、俺たちの入れ替わりも終わった。


 高橋課長と藤井が見つめ合う時間が目につくようになった。どうぞ、お幸せに。


 一方、課長から俺への視線は変わらない。諦めて……藤井と同じにはなれないよ……。藤井がやってくれた一週間分の仕事は、引き継ぎ後も非常にやりやすかった。人間関係も最高。たまには入れ替わってくんないかな。


 ……あれ? まさかこれが恋の始まり?




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