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「あ!寺嶋さん!ご無沙汰してます。」
豊虫はドンと三男雄を押し退けて立ち上がり頭を下げる。
「何してんだよ、お前らは。暑さに頭がやられちまったのか?」
普段から細い目をさらに細くしてパタパタと豊虫の肩に飛び移る。
「あ!あぁ!あなたが寺嶋さん!会いたかった!初めまして俺が噂の三男雄です。」
三男雄が無駄にいい声で自己紹介をすると寺嶋は少し彼を見つめると大あくびをする。
「おう、噂は聞いてるぞ。うちの豊虫がずいぶん世話になってるみてえだな。」
「はい!存分にお世話しております。彼は俺無しではもう生きられないと言っても過言じゃないでしょう。」
「過言すぎるよ。恥ずかしいからやめて。」
寺嶋は2人の掛け合いにチチチと笑うとベンチの背もたれに飛び移る。
2人は振り向き寺嶋の方を向く。
すぐさま寺嶋の元に正座する三男雄に釣られて豊虫も正座する。
「おうおう、2人とも見込みのある若もんだ。」
そう言って少し笑うがすぐに表情を引き締める。
「そんなお前らを見込んで頼みがある。受けてくれるか?」
「それはもちろん!ご命令とあらば地の果て、海の底までも参りましょうぞ。」
ひざまづいて胸に手を当てもう片方を広げ気取って話す三男雄に豊虫はため息をつきながら寺島に質問する。
「それで僕らへの頼みというのは?どういったことでしょうか?」
「チチ、そのなんだ。恥ずかしい話ではあるんだがな…。」
言い淀む寺嶋に三男雄はまた大袈裟に話す。
「ご安心を。恥はかき捨て、世は情け。その秘密、墓まで持っていきますのでご安心を。」
「チチチ。頼もしいことだが、なんか色々混ざってねえか?まあいいや。実はな、トビーのことなんだよ…。」
豊虫は友達であるトビーの名前が出て心がざわつく。
「トビーが?何かあったんですか!?」
立ち上がり寺嶋に詰め寄る。
「おいおい。落ち着け、ホウチュン。別に怪我したとかそんなんじゃねえんだよ。ただな…。」
「「ただ?」」
今日はよく言葉をつまらす寺嶋を不思議に思いながら2人で聞き返す。
「あいつは俺とばっかりいるからよ。動物界のことも大事だけどよ。ちゃんと友達がいた方がいいんじゃねえかと思ってよ。」
少し恥ずかしそうに翼で顔を掻きながら寺嶋は横を向いて話す。
「僕は友達…ですけど?」
「いや、そうなんだけどな。なんだ、その、あいつは俺に依存しすぎてるし…なんかよくねえと思ってな。」
三男雄は今にも弾けそうな笑顔で寺嶋に聞く。
「なるほどなるほど!承りました!要するに俺たちがトビーともっと遊ぶようにすればいいんですね!はいはい!喜んで!俺動物の友達がいないもんでずっと欲しかったんですよ!」
一気に捲し立てる三男雄に寺嶋は優しく微笑む。
「うん、そうか。すまんな。歳をとるとどうも余計な世話を焼いてしまう。そんな必要もなかったか…。」
一瞬遠くを見るような目をする寺嶋に豊虫はいやな想像をする。
「寺嶋さん…どこか行っちゃうんですか?」
寺嶋はその質問に目をパチクリさせながら豊虫を見る。
しばらくの沈黙の後、寺嶋は盛大に笑い出す。
「チチチチチチ。なんの話だ。しばらく私用で忙しくするのは確かだがどこか行ったりしねえよ。」
その言葉に安心した豊虫は顔を綻ばせる。
「そうですか。よかった。ところでトビーはどこにいるんですか?」
「おお、いつもの山にいるよ。あっちの方はまだ涼しいし涼むついでに会いに行ってやってくれや!」
豊虫が返事をするよりも前に三男雄が大声で返事をする。
「もちろん!仰せのままに…!」
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