第28話
着替えてからは早かった。
宿舎を出ると、すでに車が待機しており、そのまま乗せられた。
この世界に来てから、人の街を見るのは初めてだった。
窓の外には、整った道路と建物。
地方都市のような、落ち着いた雰囲気。
――本当に、バケモノに侵略されている世界なのか?
そう思うほど、街は平和だった。
バケモノの国の最前線とはとても思えない。
二十分もしないうちに、車は停まった。
そこは――駅のような場所だった。
「ここからはリニアで向かいます」
林が言う。
ホームは地下にあり、人の姿はまったくなかった。
進んでいくと、一台だけ頭部のような車体が待っている。
新幹線をさらに研ぎ澄ましたような流線形。
その存在感だけで、特別車両だと分かる。
どうやら本当にVIP専用らしい。
一号車しかなく、内部には十席ほどしかない。
案内されて席に座ると、静かにドアが閉まり、
短い笛の音とともにリニアが滑るように動き出した。
「今から向かうのは、この国の首都――名古屋でございます」
林の声が響く。
彼の表情には、先ほどまでの緊張が少しだけ和らいでいた。
「貴方様には、これから重要人物にお会いいただきます。
……ただ、私の口からその方の名を申し上げることはできません。ご容赦を」
「到着まで三十分ほどです。ごゆるりとお過ごしください」
そう言うと、林は軽く会釈し、
座席の脇からタブレット端末がせり上がった。
画面には、飲み物や軽食のメニューが並んでいる。
オレはサンドイッチとコーヒー、そしてオレンジジュースを選んだ。
「クマノも何か食べるか?」
肩にとまったカラスが「クァ」と鳴いて、くちばしで画面を突く。
どうやら同じものを頼むらしい。
注文してまもなく、静かな音とともにトレイが届いた。
昨日から何も食べていなかったことに気づき、腹が鳴る。
クマノが「やれやれ」とでも言うように羽を震わせた。
サンドイッチは軽くトーストされ、レタスはシャキシャキ、
ハムとソースの塩気が絶妙だった。
オレンジジュースは搾りたてで
コーヒーは香り高く、オレのような素人でも上質と分かる味だった。
久しぶりの“人のご飯”。
夢中で食べ進め、気づけばクマノと二人で六人前を平らげていた。
腹が満たされ、ほっと息をつく頃、
リニアが減速を始める。
「――まもなく、名古屋に到着いたします」
静かなアナウンスとともに、
車体が滑らかに停まり、扉が開いた。
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