第三十三話 隊長の苦悩

「ねえ、帰り道はこっちであっていたっけ?」


 來楓らいふはエルフの隠しルートを辿りつつ、見慣れない十字路に出たことに違和感を覚えた。


「そうだゾ。ここを真っ直ぐだゾ」


「いや、違うゼ。ここは右に曲がるんだゼ」


「ナニ言ってるのワヨ! そもそもコッチじゃなかったのワヨ! さっきの道を左に行かないとダメだったのワヨ!」


 來楓たちはエルフの隠しルートで道に迷っていた。

 一度は通った道なので問題なく帰れるかと思ったが、考えが甘かったことを來楓は痛感した。

 エルフの隠しルートは秘匿ひとくされているだけあって分かり難く、道を辿るだけでも困難だったのだ。

 ゴブリンたちの意見も割れて、どうしようかと思っていると、そこにエルフ隊の隊長が来てくれた。


「やはり道に迷っていたようだな。追いかけてきて正解だった」


 來楓は迷子が親に見つけてもらったかのように嬉しかった。

 しかし、すぐに「あれ?」と異変に気付いた。

 來楓たちの前に現れたエルフは隊長だけではなく、他に十数人のエルフが一緒だったのだ。

 その顔ぶれは、隊長と同じく武装したエルフが数人と、老若男女、それに子供や赤子のエルフも同行していた。


「隊長、来てくれたんですね。ありがとうございます。でも後ろの人たちは……?」


「すまないがこの者たちも君たちの学校に連れて行って欲しい」


 隊長の申し出は突然で、來楓はどうしたことだろうと思った。


「それは構いませんが、どうかしたんですか?」


 そう理由を問われた隊長は返答に窮した。

 その様子を見て來楓は隊長が抱える事情の大きさを察した。


「何か事情があるんですね……。わかりました。無理に理由をおっしゃっていただかなくて大丈夫です」


 隊長は來楓が理由を追及しなかったことに感謝した。


「誓って言うが、私も───そしてこの者たちも君たちに害をなす者ではない。そこはどうか信じて欲しい。

 我々エルフはよこしまな種族ではない。森を愛し、自然との調和をたっとび、他の種族とも無用な争いは好まず平穏に暮らす種族だ。

 だがその一方でこれまでの習わしや風習、掟にはかたくなに従う融通の利かない側面もある。

 だがどうか我々を見損なわないで欲しい。一部によこしまなエルフがいたとしても、一人の悪人に対して九十九人の善良なエルフがいるとわかって欲しい。

 我々も一枚岩ではない。今の里長であるニングに不満を抱き、耐えられない者がいる。この者たちはそうした者たちだ」


「それはいったいどういう───……」


 來楓はつい詮索しそうになったが、途中で口をつぐんだ。

 隊長の今の発言は、おそらく掟に縛られた隊長が苦心の末、どうにか話せる内容をなんとか絞り出した言葉だと察したからだ。


「わかりました。学校に居たいというならどうか好きなだけ居てください。お客様として歓迎します」


 來楓がそう了承すると隊長は心底安堵したようで表情を和らげた。


「今、私たちの学校は作物の収穫で賑わっています。毎晩のように宴をしているのでお祭りムードいっぱいですよ。ぜひ一緒に楽しみましょう」


「すまない。ありがとう。この御恩は忘れない」


 エルフ隊の隊長は胸に手を当ててうやうやしく膝まづくと、來楓の前に平伏した。

 そして隊長に付き従うエルフたちも同様に膝まづいた。

 その優雅な所作に來楓は目を奪われたが、同時に自分に対してそこまで大仰おおぎょうに礼節を尽くしてくれることに恐縮し、大慌てで全員にどうか顔をあげてくださいと懇願した。


 そう言われてからも、たっぷり十秒以上、エルフたちは膝をついて頭を垂れていたが、ようやく立ち上がってくれた。來楓はほっと胸を撫でおろした。

 そしてそれと同時に、エルフ隊の隊長と、そして行動を共にしたエルフたちが深い悲しみと葛藤を背負っていることを感じ取った。

 彼らの所作はその一つ一つがとても洗練されていて優美だったが、その輝きはどこか薄暗く、灰色がかっているみたいだと來楓は感じた。




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【あとがき】

 エルフ隊の隊長と付き従ったエルフたちの苦悩が伝われば幸いです。


 さてさて、そしてエルフ隊の隊長の「秘密」ですが第三章で明らかになります♪

 皆さまにお楽しみいただければいいな~とワクワクしております(笑

 乞うご期待いただけますと幸いです♪

 ( ᵕᴗᵕ )


 私のモットーは皆さまに「面白い!」と思っていただける小説を書くことです。

 ୧(˃◡˂)୨


 これからもそれが実現できるよう精進を続けて参ります!

 (๑•̀ㅂ•́)و✧ガンバリマス

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