第二十二話 またもやハーピー

 エルフの里から学校までの帰り道は、エルフ隊の隊長が同行をしてくれた。

 特に危険があるわけではないが、道案内を買って出てくれたのだ。

 隊長が案内してくれたルートはエルフたちの隠しルートで、来るときに來楓たちが通ったルートよりはるかに歩きやすかった。


「一見すると道なんてないように見えるのに、案内されると確かに道がある……。不思議ですね」


 來楓らいふはエルフの隠しルートが巧妙にカモフラージュされていることに驚いた。


 この調子なら早く学校に帰れそうだと嬉しくなった來楓は、足取りも軽く隊長の後に続いたが、急に隊長が立ち止まったので危うく激突しそうになった。


「あ、あの、隊長さん。どうかしたんですか?」


 來楓は少し不安になった。

 隊長の立ち止まり方はあまりに急で、不穏だったからだ。

 何か危険なものを見つけて立ち止まったような感じだったのだ。


 ───そしてそれはその通りだった。


「ハーピーだ」


 隊長は短くそう告げると、弓に矢をつがえて構えた。

 ゴブリンたちも棍棒を構えて周囲を警戒した。

 ほどなくして鳥が羽ばたく音が近づいてきたかと思うと、近くの木の枝にハーピーが降り立った。


「エルフを見つけただッピ。おや? ゴブリンも一緒にいるだッピ。珍しいだッピ。

 あと後ろの娘。オマエはを持っているなだッピ。それは「植物万能薬ダイホウサクアムリタ」だッピ? いいないいな~だッピ。それがあれば宿木やどりぎさせられるだッピ。それをよこすだッピ」


 そういうとハーピーは鋭い鉤爪を光らせた。

 エルフ隊の隊長がすかさずハーピーに矢を放ったが、ハーピーは身をひるがえして難なく矢をかわした。

 そして來楓が持つ「植物万能薬ダイホウサクアムリタ」を奪おうと鋭い鉤爪かぎづめを伸ばした。


 來楓は慌ててその場にしゃがみ、すんでのところでハーピーの鉤爪を交わしたが、ハーピーは尚も執拗に「植物万能薬ダイホウサクアムリタ」を奪おうと來楓に襲い掛かった。

 久造がくわを振ってハーピーを追い払おうとしたが、素早いハーピーは軽やかに攻撃を躱し、追い払うことができなかった。


「やめるんだゼ、ハーピー」

「そうだゾ、それ以上やるならオイラたちも黙ってないゾ」

「そうよワヨ。多勢に無勢ワヨ。諦めなさいワヨ」


 ゴブリンたちも加勢して來楓を守ると、さすがのハーピーもたまりかね、上空に逃げようと羽ばたいたが、その隙を狙ってエルフ隊の隊長が矢を放ち、ハーピーの翼を射抜いた。

 翼を傷つけられたハーピーはバランスを崩して地面に墜落したが、詰め寄るゴブリン、久造、エルフ隊の隊長に鉤爪を振りかざして威嚇し、それ以上の接近を許さなかった。

 激しい牽制の応酬が続いたが、そうした緊迫した膠着状態を諫めたのは來楓だった。


「まってみんな、落ち着いて。ハーピーも鉤爪を降ろして。あなたが襲ってこない限り、私たちはあなたに危害を加えないわ」


 來楓は懸命に説得したが、ハーピーはなかなか受け入れてくれなかった。


「ねえ、あなた。私たちの言葉が喋れるわよね? ひょっとして私が異世界に来たときにお弁当を奪って食べたハーピーじゃない?」


 そういわれるとハーピーはピタリと動きを止め「あれ……?だッピ。そういわれるとあーしはアンタたちの言葉がわかるだッピ」と言葉を理解して喋れている事実に気づいたようだ。


「それにそうだッピ。あーしは最初にアンタのお弁当を奪って食べたハーピーだッピ」


 やっぱり、と來楓は思った。

 そして相手の世界の食べ物を食べると、その相手の言葉がわかるようになることを教えた。


「そうだったんだッピ。それでわかるようになったんだッピね」


 ハーピーは納得して落ち着いてくれたようだった。


「ねえ、あなた。「植物万能薬ダイホウサクアムリタ」が欲しいみたいだけど、最初に自分たちの宿木やどりぎが復活できそうだっていっていたけど、それってどういうこと?」


「あーしたちの巣があった宿木やどりぎがエルフたちにり倒されただッピ。新たな宿木が育つまで時間がかかるだッピ。それまであーしたちは巣が作れず、繁殖ができないだッピ。でも「植物万能薬ダイホウサクアムリタ」があれば宿木をすぐに成長させることができるだッピ」


 事情を聴いた來楓は隊長に確認をした。


「エルフの皆さんがハーピーの巣がある宿木やどりぎり倒したというのは本当ですか?」


 そう問われた隊長は居心地が悪そうだった。


「残念ながらその話は本当だ。森を愛するエルフが木をるなど断腸の思いだったが、ニングの命令で従わざるを得なかった。木を伐り倒して畑を作るためだ」


 ここでもニング先生が畑を作るために……。

 來楓はニングの所業の被害の大きさを嘆いた。

 ゴブリンの住処を奪い、川を汚染して精霊水馬ケルピーの泉を干上がらせ、木をり倒してハーピーの巣を破壊するなんて、どうしてそこまでしてニング先生は畑が必要だったのか……。

 來楓はますます疑問に思った。


「ねえ、ハーピー。「植物万能薬ダイホウサクアムリタ」は全部はあげられないの。私もボン太郎を元気にさせたいし。でもボン太郎にあげて残った「植物万能薬ダイホウサクアムリタ」ならあなたにあげるわ。それでどう?」


 來楓の提案にハーピーは喜んだ。


「本当だッピか? なんだオマエ、イイやつじゃないかだッピ。ぜひそうしたいだッピ」


 こうして話がまとまり、ハーピーも來楓たちと一緒に学校に向かうことになった。




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【あとがき】

 お世話になっております。柳アトムです。


 ハーピーとの交渉に成功した來楓は、この後、学校に戻り、ハーピーが仲間になってくれます♪


 そしてもう一つ───。

 エルフ隊の隊長ですが、があります(ニヤリ


 どんな秘密なのかお楽しみにしていただけますと幸いです。

 皆さんのご期待にそえるよう頑張りますよ~!

 ୧(˃◡˂)୨

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