第八話 夢だけど夢じゃなかった

 翌朝、來楓らいふは農作業の続きをする為に校庭グラウンドにやってきた。


 昨日は二✕二メートル四方の畑を一枚作ったが、今日は二枚作ることが目標だった。

 しかし、昨日の慣れない農作業で來楓は身体のあちこちが筋肉痛だった。


「ふだん使ったことのない筋肉を使ったから身体がバッキバキだよ~……」


 今日は休みたい気持ちで一杯だったが、今頑張らなければ将来、食料不足でもっと困ることになるかもしれないので、來楓は懸命に気力を振り絞った。


「あ、あれ……? 昨日植えたジャガマイモだけど、もう芽が出ている?」


 昨日作った畑の隣を耕そうと思った來楓は、畑から十センチ程の芽が出ていることに気が付いた。


久造きゅうぞうさ~ん。昨日のジャガマイモですが、もう芽が出ていま~す」


 來楓は手を振って久造に呼びかけた。


「ジャガイモやサツマイモもこんなに早く芽が出るんですかね?」


「いや、さすがにここまで早くはないはずじゃ。これはあれじゃな。きっとここが異世界なので、ワシらの常識とは違うのじゃろう」


「そうなんですか?」


「ほれ、牧場を経営するようなゲームでも、種を撒いたら次の日には芽が出たりしているじゃろ? そういうことじゃと思うぞ」


來楓は「異世界ってそんなゲーム感覚なんですかね?」と小首を傾げたが、ジャガマイモの芽が出てくれたこと自体は嬉しく、畑づくりをするモチベーションのアップにつながった。


「よ~し、それじゃあ、頑張ってもっともっと畑を作りますッ!」


 來楓は腕まくりをして気合を入れた。


「その意気じゃ、來楓ちゃん。頼んだぞ」


「ニュゥ~ッ!」


 そんな來楓に久造とニュウが声援を送った。

 來楓は元気よく「はい!」と答えると、腕まくりをしてくわを振り上げたが、その時───。


「ギャッギャッギャ~!」


 またもやゴブリンたちがあらわれた。


「あんたたち、また来たのね……」


 來楓は警戒して油断なく鍬を構えた。

 しかしゴブリンたちは來楓を襲う様子はなく、恐る恐る柵に近づくと來楓に箱のようなものを差し出した。

 それは來楓のお弁当箱だった。


「あッ! 私のお弁当箱ッ!

 ……な、なによ。お弁当箱だけでも返そうっていうの? だとしてもお兄ちゃんが私の為に作ってくれた愛妹弁当あいまいべんとうを奪った罪は許されないからね」


 來楓は恐る恐る手を伸ばし、お弁当箱に手を掛けた。

 ゴブリンたちの罠かもしれないと警戒したが、ゴブリンたちはすんなりとお弁当箱を來楓に返してくれた。

 幸いお弁当箱は壊れておらず、無事だった。


「あんたたち、よく見たらまだ子供だよね? あと随分と痩せているみたいだけど、ゴブリンってみんなそんな感じなの?」


 ゴブリンたちに近づいた來楓は、三匹の様子を改めて窺った。

 ゴブリンたちは來楓に何か言われたことはわかったようだが、言葉の意味は理解できていないようだった。


「……あんたたち、お腹空いている……よね……?」


 來楓はゴブリンたちに話しかけたが言葉が通じるわけはなかった。


「どうしたんじゃ、來楓ちゃん。おお、またゴブリンがきておったのか」


「久造さん。この子たち、まだ子供でお腹を空かせているみたいなんです」


「ふーむ。どうやらそのようじゃの。では少し話しでもしてみるかのう」


「え? 久造さん、ゴブリンの言葉がわかるんですか?」


 來楓は驚いた。


「ワシはわからんがニュウならわかるぞ」


 久造がそう言うと、ニュウは誇らしげに「ニュゥッ!」と元気よく鳴いてみせた。


「そうなんですね。───あ、でも、ニュウがゴブリンの言葉のわかっても、私たちがニュウの言葉をわからないんじゃ……」


「なんの、ニュウならだいたい何を言っておるのかわかるぞ」


 そう言って久造は誇らしげに胸を叩いた。


「そ、そうなんですか? わ、わかりました。じゃあ、ニュウ。ゴブリンたちの話を聴いてみて」


 來楓にそう促されると、ニュウはゴブリンに近づき「ニュニュゥ~、ニュニュニュ、ニュゥニュゥ」とゴブリンたちに語り掛けた。


 ゴブリンたちは一瞬、顔を見合わせたが「ギャギャ、ギャッギャッ、ギャギャギャギャギャ」と何かを言い始めた。

 ニュウとゴブリンの「ニュゥニュゥ」「ギャギャギャ」というやり取りはしばらく続いたが、久造が両者のやり取りを聴いて「なるほどのう~」と納得をしたように頷いた。


「久造さん、わかったんですか?」


「うむ。大筋の話はわかったぞ。このゴブリンたちは近くの洞窟に住んでおったが自分たちの縄張りにエルフたちがやって来て、食料を奪われてしまったそうじゃ」


「そうですか……。だからこんなにお腹を空かせているんですね」


「ふだんなら草原にはあまりこないのじゃが、食べられるものがないか此処ここまで探索に来たようじゃな。巣には腹を空かせた仲間が大勢いる。自分たちがどうしても何か食べ物を見つけなくてはいかんようじゃ」


 それを聞いた來楓はゴブリンたちに憐れみを覚えた。


「久造さん、私に考えがあるんですが、この子たちを中に入れてもいいですか?」


 久造は目を丸くした。


「ど、どうしたんじゃ、來楓ちゃん。ゴブリンを警戒していた來楓ちゃんがそんなことを言うとは……」


 久造の驚きはもっともだと來楓は思いつつ「この子たちに学校の校庭を耕してもらうんです」と自分の計画を久造とニュウに伝えた。




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【あとがき】

 ニュウとゴブリンの「ニュゥニュゥ」「ギャギャギャ」と会話をする姿を可愛いと思って書いております(笑


 ゴブリンに校庭を耕してもらおうという來楓の計画はうまくいくのか?

 乞うご期待いただけますと幸いです。

 ( ᵕᴗᵕ )

 この後も、皆さまに「面白い!」と思っていただけるよう頑張ります!

 (๑•̀ㅂ•́)و✧

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