第15話 怪物に呼びかける心

地下室の空気は重く、古代の埃と淀んだ魔力の匂いが立ち込めていた。




忘れられた力の囁きに惹かれ、私は禁断の地下室へと深く降りて行った。




巫女の言葉、つかの間の警告の吐息は、私の好奇心の残り火を煽ったに過ぎなかった。




退屈、常に付きまとう存在は、今や鋭い刃へと研ぎ澄まされていた。




石壁は血の汗を流す。足音は押し殺した心臓の鼓動のように響く。




下の階層に行くほど、寒く、古く、そして間違ったものになっていく。



カフカはポケットに手を突っ込み、退屈そうに降りていく。好奇心旺盛で、美しい。




広大な空間が私の前に開けた。空気はさらに冷たく、金属的な匂いが混じっている。




頭上には、逆さまに棺が吊るされていた。




木でも石でもなく、黒曜石のように黒く、微かで邪悪な光を放つ深紅のルーン文字が刻まれた、石灰化した甲羅だった。




男の腕ほどもある太い鎖が、血のように赤く光りながら、その形に巻き付き、蛇のように絡みついていた。




ルーン文字は古代の神の血管のように脈打ち、目に見えない力に固定している。




その周囲の空気そのものが、太陽が完全に隠れる瞬間の永遠の息を呑むような状態に捉えられ、凍りつき、揺らめいていた。




ルビーのように赤い一滴が、重力に逆らい、その前に浮かんでいた。小さく、宙に浮いた心臓。




カフカが入ってきたとき、時間そのものが震えたように感じられた。静止状態に微妙な震えが走った。




血の滴は、静寂の構造にできた小さな涙のように、ほとんど知覚できないほどに棺の表面に向かって傾き始めた。




私は立ち止まり、首を傾げ、その奇妙な光景をじっと見つめた。




少し身を乗り出した。




「どんな遺物か、見せてもらおうか。」




白く細い指が伸びた。私はその滴を弾いた。




それは血の弾丸のように飛び出し、凍った表面に鋭く共鳴する音を立てて衝突した。




棺に当たる。



霜の表面に亀裂が広がる。



カーン。




その音は、大聖堂の鐘が砕け散るような、虚空に響き渡る弔いの鐘のようだった。




蜘蛛の巣のように繊細な、髪の毛ほどの亀裂が、霜に覆われた棺を覆った。カフカの唇が歪んだ。




私はニヤリと笑った。




「もし危険なら…目を覚ませ。

そうでなければ…静かにしていろ。」




滴は棺の凍った表面に溶け込んだ。部屋がうめき声を上げた。低く、喉が鳴るような振動。




血のように赤いオーラが部屋中に爆発する。



そして—



ドーーーーーン。




稲妻のように赤い血管が、黒い球体を走った。




逆さまの棺が光り始め、その深紅の光は深まり、強さを増した。




石の床のルーン文字が燃え上がり、棺の目覚めを映し出した。鎖が悲鳴を上げ、激しくガタガタと音を立てた。まるで目に見えない手に抵抗しているかのようだった。




棺は死にゆく星のように輝く。




深紅の光の血管が、生きたネットワークのように棺の表面を這い回る。




私は傍観者として、足を組み、唇に薄い笑みを浮かべながら見ていた。




「やっと、何か面白いことが起きた。」




天井から水滴が離れ、真っ逆さまに落ちてきた。それは古代の石に触れるとシューッと音を立てた。小さな吐息。




血のように赤いオーラの爆風が棺から噴き出し、大地の基盤そのものを揺るがす衝撃波となった。




黒い甲羅が真ん中からひび割れ、絹を裂くような音を立てて割れた。




砕けた開口部の中から、逆さまの、大きく、古く、そして飢えた深紅の瞳が一つ開いた。



ドーン。ドーン。ドーン。




くぐもった囁きが、奥底から響いてきた。




「この心臓…その音が気に入った。」




重層的で響きのある声が、空間を満たした。




「もう一度聞かせてくれ…私を呼ぶ鼓動を。」




私は眉をひそめた。




「話せるのか。いいことだ。」




棺が爆発し、凍った結晶の花びらとなって砕け散り、深紅の雪のように降り注いだ。




彼女は空中に逆さまに浮かび、真夜中のように黒い髪は煙のように上に向かって流れていた。




鎖は一本ずつ、彼女の手首、足首、喉から外れて落ちていった。それぞれの破断は、解放される悪魔の叫びのように響き、彼女のオーラの激しい奔流を伴っていた。



カーン。


カーン。


ヒビ。




ホールは生き物のように震えた。長く優雅な、白い手が伸びてきた。彼女はゆっくりと頭を回し、深紅の視線をカフカに向けた。




「あなたの鼓動…それは私が何世紀もぶりに聞いた音。」


私の興味、稀な閃きが、私の目に映った。




「それなら、あなたの何世紀かは退屈だったでしょうね。」




彼女の体は揺れ、不気味な振り子のように揺れた。そして、空気を押し出す囁きとともに—



フウンプ。




彼女は一瞬でひっくり返り、ひび割れた石の上に音もなく着地した。衝撃も音も全くなかった。




彼女の白大理石のように白い裸足は、まるで重力が彼女に影響を与えないかのように、壊れた大理石の上を滑るように移動した。




彼女はカフカに向かって歩き、彼のわずか数インチ手前で立ち止まった。彼女の息は冷たく甘く、彼の肌をかすめた。



冷たい霧が彼女の体から立ち上る。



牙が彼女の唇をかすめる。




彼女の濃密で抑圧的なオーラが、彼を包み込むように覆った。




彼女の目は、輝く深紅で、古代の飢えで燃えていた。冷たい指先が、羽のように軽く彼の頬を撫でた。




「私を目覚めさせたのね…

あなたの顔をよく見せて。」




私は動かず、視線をそらさなかった。




「起こしたばかりの人にしては、ずいぶんとベタベタするんだな。」




彼女の笑顔が広がり、優雅で執拗な曲線を描いた。



「ベタベタ?

いいえ…

私はただ、自分のものにするだけ。」




空気そのものが静止し、突然真空になった。彼女の目は深まり、献身の渦となった。




彼女の牙、双子の真珠が、優雅に、野蛮ではなく現れた。彼女の後ろのホールは、より深く、血のように赤い光で脈打った。




風そのものが止まる。




私の目は、微妙な興味を持って細められた。


◇◇◇



暗い通り。


血染めの壁。


臓物の山。


下水溝から見つめる腐った目。



街は腐敗、血、そして洗われていない体の悪臭を放っていた。古い染みが石畳を飾り、過去の恐怖の陰鬱なタペストリーとなっていた。




眼球、臓物、そしてずたずたにされた手足が壁にへばりつき、あるいは捨てられたおもちゃのように散らばっていた。悪臭は常に付きまとう存在であり、多くの人にとっては単なる背景の騒音に過ぎなかった。




しかし、妊婦にとってはそうではなかった。3日間で5人が姿を消し、腹を裂かれ、肉を貪り食われた。




甲高い叫び声が空気を切り裂いた。小さな少年が、顔に恐怖を刻み込み、よろめき、裸足が何か濡れたものの上で滑った。



彼の後ろには、10歳にも満たない別の子供が、光るナイフを手に、血まみれの唇に狂気の笑みを浮かべながら追いかけていた—笑いながら。




最初の少年は息を呑み、膝をついた。ナイフを持った少年は腕を上げ、目を大きく見開き、恐ろしい歓喜に満ちていた。



「あいつを殺せ、豚野郎!」




ナイフを持った子供は彼の上に覆いかぶさり、笑みが広がりすぎる—




古く、ガラガラ声が騒音を切り裂いた。ぼろぼろの服を着た老人が、彼らの間に割って入った。



「や、やめろ!やめないで—」




ナイフは代わりに、老人の胸に何度も突き刺さった。血が噴き出し、深紅の噴水となり、少年の顔を濡らした。




老人は崩れ落ち、その命は汚れた通りに流れ出た。もう一人の子供は、狂気と恐怖が混ざり合った恐ろしい表情で目を大きく見開き、刃から血が滴るナイフを引き抜いた。




最初の少年は、チャンスを捉え、立ち上がって逃げ出し、その叫び声は街の終わりのない騒音に飲み込まれた。




ナイフを持った子供は、息を切らし、目を離して輝かせながら、空中で静止する。




殺人者は、血が顔に飛び散り、目はうつろになり、笑みは身の毛もよだつものとなった。




血が彼の指から滴り落ちる。




「彼は当然の報いを受けたんだ。いつもおしゃべりだったからな。いつも私に指図してばかりだった。」




少年の声は、子供っぽい抑揚で、恐ろしいほど穏やかだった。




「これでやっと遊べる。」




彼は唇から血の一滴を舐め、その視線は逃げる人影にさまよった。




「戻ってこい、豚野郎。始まったばかりだ…この世界は悲鳴を上げている方が美味い。」

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