親戚のオタクな英国美少女を家で預かったらオタ活が捗り過ぎる件

海月くらげ@書籍色々発売中!

第1話 英国からの同居人

 オタクというのは度し難い生き物である。


 推し作家の新刊は当然予約で発売日に買い、限定特典付きとあらば大枚叩いてでも全種類揃える。

 生活費をギリギリまで切り詰め、想いのままにコンテンツへ金を投げ込むのだ。


 俺――東城とうじょう清彦きよひこもまた、その一人。

 バイトに励む高校生の限られた財力でやりくりしているオタクだ。


「午前中の内に来るって聞いたけど……本当に来るんだよな?」


 寒さも和らぎ、春の訪れを随所で感じる三月末。


 俺は部屋をぐるぐると歩きまわりながら、しばらく前に父親から告げられた家の事情へ思いをはせる。

 待っているのは予約していた限定版フィギュア……ではない。


 というのも、海外に住む遠い親戚の子どもをしばらく預かることになったのだ。

 その子が今日来るらしい。

 けれど父さんも母さんも仕事で留守にしているため、出迎えるのは俺の役目。


 折角今日はバイトも休みだからソシャゲのイベントやらなんやらを消化しようと思っていたのに。

 まあ、留守番くらいは引き受けよう。

 俺も無関係じゃいられないし。


「でも、大変なのは相手もか。いきなり環境が変わるんだし。父さんの話だとオタク同士話が合うんじゃないかって言ってたけど、オタクにも色々あるんだよ。ジャンルの違い、コミュ力のあるなし、推し論争……とても趣味が合うとは思えない」


 俺は自他ともに認めるオタクだ。

 ソシャゲの新キャラ告知に一喜一憂し、アニメをリアタイ視聴してはSNSで感想を書き連ね、いくつもある本棚は漫画とラノベで埋め尽くされ、ショーケースには買い揃えたフィギュアがいくつもポーズを取っている。

 部屋の壁は特典でもらった美少女たちが描かれているタペストリーやらポスターやらが埋め尽くし、さながらハーレム状態。

 当然のようにスマホの壁紙もアニメキャラである。


 そして、見た目的にもオタクである。

 平凡な顔に黒縁の眼鏡をかけた、人畜無害そうな男。

 まったくもって面白みの欠片もない、アニメならモブキャラAとでもキャスティングされていそうな存在感の薄さ。


 果たしてそんなコテコテのオタクたる俺と、仲良くできるだけの素質を持ち合わせているのだろうか。


「……車の音? 来たか」


 家の外から響いてきたエンジンの音をとらえ、脚が止まる。

 これで違かったら恥ずかしいなと思いながら今か今かと待っていると、ピンポーンとチャイムが鳴り響いた。


 込み上げてきた緊張を抑えながら玄関へ走り、扉の前で息を整える。


 外国……イギリスの親戚としか聞いていないけど、外国人ってだけでイケメンなんじゃないかと疑ってしまう。

 イケメンに恨みはないが、イケメンでオタクなのはなんかちょっと許せない。

 ……俺の心が狭いだけか?


 てか、本人確認のために名前とか顔くらいは聞いておくんだった。

 話をされたのが半年前とかだったから忘れると思って後回しにしてたんだよな。

 無事に当日まで忘れてしまうとは情けない。


「日本語はある程度喋れるとは聞いてるし、どうにかなるか」


 ピンポーン。


 暫く待っても俺が出てこなかったからか、二度目のチャイムが鳴らされる。

 ごめんて。


 緊張を紛らわすのもそこそこに、これ以上待たせるわけにはいかないと扉を開け――想定していなかった現実が飛び込んできて思考が止まった。


「あ……えっと、はじめまして、なのです。ここがトージョーさんのお家であっているのですか?」


 イントネーションに外国人特有の癖があるものの、意味は伝わる日本語。

 それを奏でるのは可憐で、楚々とした女の子の声だ。


 うちを訪ねてきたのはオタクの敵の高身長イケメンではなく、僅かに緊張した面持ちの優しそうな美少女。

 さながら天使みたいに可愛い、二次元から飛び出してきたと言われても納得するほど整った容姿の女の子が立っている。


 髪は鮮やかな金髪ロング。

 空のように澄んだ青色の瞳が一心に俺を映している。

 女の子らしい柔らかな輪郭、長い睫毛、すっと通った鼻筋に瑞々しい唇。

 目鼻立ちがはっきりしているのは外国人だからか。

 なんとなく、年上のように感じてしまう。


 そんな彼女の出で立ちは白のブラウスと紺のスカート、首元に細い紺のリボンタイという、オタク的には見覚えのある服装。

 そして、一際大きな存在感を放つ二つの膨らみ。

 ドアを開けた時から視線が吸い寄せられ、悟られないようにそっと外す。


 そのまま視線を下へ送ると、片手にはキャリーケースが提げられている。

 荷物はこれだけのようで、もう片方の手は緊張を示すようにスカートを摘まんでいた。


 なんというか、旅行中の騎士王みたいだな。


「旅行中の騎士王みたいだな……」

「わかるのですか!? わたし、アルトリア大好きなのです!」

「んっ!? 今声に出て……!」


 急に目を輝かせて答えた女の子に驚き、自分が無意識で言葉を発していたことにも呆れ、やっとのことで冷静さを取り戻す。

 この食いつきようはオタク特有のアレだ。


 ……だが、しかし。

 まだ彼女が親戚の子と決まったわけではない。

 確定するまではシュレディンガーの騎士王……もとい、親戚の子である。


「ん゛んっ! ……えっと、君がうちで預かる親戚の?」

「はい。シャーロット・ホワイトなのです。これから末永くよろしくお願いするのです、キヨヒコさん!」


 微笑みながら告げられた彼女の名と、俺の名前。

 家族と数少ない知り合い以外から呼ばれることのない名前が彼女……ホワイトさんから呼ばれたことで、変に動揺してしまう。

 オタクってのは美少女に弱いんだよ。

 二次元はともかく、三次元にもな。


 でも、これで確定か。


 今日からうちで預かるのは金髪碧眼美少女のホワイトさんです!

 しかもオタク文化に理解があり、オタクにも笑顔で接してくれます!

 これから一つ屋根の下、両親含めて四人での生活が始まります!


「なんやそれ完全にオタクの妄想ですやん」


 完全な想定外に見舞われた俺の頭がエラーを吐き出す。


 俺は気づかぬ間に二次元の世界に迷い込んでしまったのか?

 頬をつねったら普通に痛いし夢から覚める気配もないし、ホワイトさんは「大丈夫ですか!?」と心配そうにのぞき込んでくるしで天国かよありがとうございます。


 けれど、それはそれとして。


「……これ、リアル?」

「リアルなのです。それとも……わたし、お邪魔ですか?」

「いえいえとんでもない邪魔なのは俺です!!」

「キヨヒコさんは邪魔じゃないのです! むしろわたしがお邪魔する側なのです!」


 こんな女の子と一つ屋根の下で生活とかほんとにいけんの??

 別に襲ったりするほどの度胸はないし、親もいるから間違いなんてそれこそ間違っても起こす気はないけどさぁ!?


「…………俺の手に負えないだろ、これ」


 アニメや漫画で何度も嗜んだシチュエーションが現実のものになった衝撃で、半ば宇宙猫状態になってしまったのは許して欲しい。


―――

というわけで新作です。

ヤンデレブームに逆張りオタク……でもこういうのがあってもいいと思うんですよ(?)

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