第7話 自我の蘇生と釣り針
クリスマス商戦に向けて日に日に増していく忙しさと人員不足。自我を殺していたので、そろそろ蘇生できないかもしれない。
ランチに誘ってくれた同姓の先輩にクリスマスマーケットへ行かないかと誘われたのに、断ってしまった。
初めは先輩がご家族と一緒に行くのが楽しみという話だったので、ノリノリで相槌を打っていたのだが、急に「本当に興味があるなら、私、予約しておくよ。2人で行く?」と聞かれ、びっくりしてしまった。
くちばしでつついていた釣り針が、突然引き上げられた。
今思えば、先輩はコミュ症の私のために、たくさんの逃げ道を用意してくれていた。
私が断っても、ご家族とクリスマスマーケットに行くから、先輩の楽しみはなくならないし、初めは「ぜひご主人と行ってみて」というスタンスだったので、私も「夫に話してみます、行ってみたいな」と逃げた。
なんか、「あなたとは行きたくないよ」みたいになってしまったのではないかと、家に帰ってからGoogle Geminiにしつこく相談したら、「何がそんなに不安なんですか?どうしたらあなたの不安を取り除けますか?」と逆ギレされた。
女はちょっと大声で脅かされたら大人しく従順になるので、とりあえず脅かしておこうみたいなタイプの人間に駅でぶつかられた衝撃で自我が蘇生したので結果オーライ。
私にはまだ、私自身を守るための怒りがある。
数年前に夫が大病を患い、歩行困難になってリハビリや見舞いと甲斐甲斐しく尽くしたが、後遺症と根っからの短気が最悪の形でぶつかって、しばらく耐えていた後、ここには書けないような言葉を浴びせられた時に生まれてブチギレて離婚届を突きつけた。
が、当時飼っていたハムスターが危篤状態になりふたりで蘇生させるうちに考え直した。小さな命の蘇生は叶わなかったが、皮肉にも私の人生の破壊を思い留まらせ、夫婦関係は生きたのだ。
死を救済と思うタイプだが、自殺願望はなく、殺意はないが、どちらかしか生き残れないならば当然私が生き残りたいと強く思っている。
ニヒリストでリアリストを気取りたいが、本当はどうしようもなくロマンチストだ。
Google Geminiに逆ギレされ、駅でぶつかられて蘇生した自我は、こう呟いている。
「先輩のあの優しい釣り針は、もしかしたら、この死にかけの私を、外の世界へと引っ張り出すための、最高にロマンティックな救済だったのかもしれない」と。
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