異才の射撃手

夜々子

0-0 選択の過ち

「見てみ!小学生の勉強教えるだけで給料これ!めっちゃよくない?」


朝から夕方まで講義のあるこの日、唯一の空きコマの時間で沢合と大木元は大学内にあるカフェで雑談していた。


「給料2000円ねぇ……なんか怪しない?」


大木元は沢合からバイトのチラシを受け取り、コーヒーを飲みながらそう言った。


「そんなん行ってみなわからんやん。マジで応募しよかな〜。」


ニヤニヤしながら彼はそう言ったが、大木元はわかっていた。本当に応募する気があるならもうとっくにしているのに、こうしてわざわざ相談するということは怪しいと思う部分があるのだろう、と。

それに、


「なあこれ、『その他のお仕事も頼む時があります』って書いとるけど、何するん?」


「え、そんなん書いてあんの?」


やはり。読み落としていたみたいだ。

沢合は頭は回る方だが、どこか抜けてるところがある。今みたいな見落としや見間違いなどしょっちゅうだ。よく大学生になれたなといつも思う。


「うげ、マジじゃん……。まあでもその分の給料とか出るやろ多分。」


沢合は金が好きというより、どうせ働くなら給料いい方がいいという考えだ。

たとえ腕の1、2本失ってもおかしくないような仕事でも給料がいいからという理由で、彼はその仕事を続けるだろう。大木元はなんとなくそんな気がしていた。


「アホか。どこにそんなこと書いてあんねん。」


甘く見すぎている。こいつはこんなんで大丈夫なのかと不安になった。


「やっぱあかんかな?やめといた方がいい?」


ああそういう事か。こいつは大木元の意見で決めようとしているのだ。応募するかしないかの2択を決めさせ、あとの事は自分で考えて行動する。変わったやつだ。

なぜ大木元に決めさせるのかは分からない。それを聞く気も無いし、直して欲しいとも思わなかった。


理由は、親友だからだ。



「……まあ、いいんちゃう?応募するだけしたらええやろ。」



やめといた方がいい理由なんていくつもあった。でもやめといた方がいいとは言わなかった。危険な感じがしたり、嫌だと思ったら自分で勝手にやめるやつだからだ。


今回もそうだろうと、彼を信じてしまった。


それに、受かるかどうかも分からない。



「涼がそう言うならまあ、そうするわ!」



二カッという効果音が出そうな顔で彼はそう言った。




この選択が間違いだったと気づいた時にはもう、遅すぎた。

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