ダンジョンが生えた現代世界でお家を守りたかっただけなんです

1nk.

第1話

 神は悩み、そして嘆いていた。


 数十年前に起きた破壊と殺戮が再び世界中で起きようとしている気配を感じたからだ。

 己の欲を満たさんがために脅しと権力を使い兵を集め街を、人を蹂躙していく。


 人間というのはなんと愚かで欲深い生き物なのか。

 この星は人だけの物ではなく他の生き物の物でもあるというのに。


 人は欲の果てに木々を切り倒し森を狭め、山を崩し、己の所有する範囲を広める為に海を埋め勝手に土地を作っている。

 その結果大地は渇き火がつきやすくなり山や森を焼き、また水が集まりやすくなった場所では豪雨に見舞われて山が崩れて川を氾濫させている。

 地震や台風もその頻度や威力が上がってしまっているのも人々が生活を豊かに、便利に、貪欲に求めた結果なのである。


 神はその都度警告を神託という形で降ろしたが、神の声を聞ける存在が少なかった。

 使徒の声はメディアに消され、戯言を――と笑われて終わる事が多かった。


 もうこの世界は一度壊した方がいいのかもしれない――そう神が心を決める前に一人の異界の女神がつぶやいた。


 ならば救いと試練を与えてみてはいかが?――と。


 自然を破壊してエネルギーを得ているのならば自然を壊さずに得られるエネルギーを与え、争いを続けるのならば争っていられない状況を試練とすれば良い、女神は微笑みながら説明した。

 人類の欲に疲れ切っていた神はその助言を受けて地球にダンジョンを創り出す。


 新たな年がすぐそこに来たタイミングで。


 世界中が次々とカウントダウンをする中、突如大きな揺れに襲われる。

 一度目の揺れは世界にマナを満たす揺れ。

 二度目の揺れはダンジョンを生み出す揺れ。

 その揺れに合わせて世界各地に『ゲート』が現れる。

 立派な装飾が施された物から木製のもの、石でできた無骨な物から家々につけられた普通のドアのような物まで。

 大きさも素材も違うさまざまな形状のゲートが現れるのと同時に人々の頭に声が響いた。


 声は世界中にこの不可思議な現象を起こしたことを説明する。


《これは神である我からの救いであり試練である》


 その言葉を聞いた瞬間、人々の頭の中にダンジョンの知識が流れ込んでくる。

 世界各地の『ゲート』の先はダンジョンとなっており、様々な試練と様々な恩恵が用意されていると。

 この世界で生きたければダンジョンに赴き戦え。

 この世界で変わらず生きたければ恩恵を受けよ。


 だが突然のことに人々は混乱し動けなかった。


 それは神にとっての誤算である。

 勇み勢いでダンジョンに入る者がそこそこの数居ると思っていたのだ。

 だからこそ、その者たちに相応しき特別・・な恩恵を用意していたというのに――。



《この世界で初めてダンジョンに踏み込みました》

《この世界で初めて魔物を討伐しました》

《この世界で初めてレベルが上がりました》

《この世界で初めて魔物素材を得ました》

《この世界で初めて魔術を受けました》

《この世界で初めて――》


 勇者達に与えられるはずだった特別な恩恵は、とある国に出現した小規模なダンジョンに飛び込んだ少女一人に総取りされてしまう。

 思惑と違う展開に神はその能力を回収しようとしたが、考え直す。


 世界が混乱する中、この少女は果敢にもダンジョンに挑んでいった。

 それが私利私欲ならば恩恵は奪い返していたが、少女は純粋に居場所を『守る』為に挑んでいた事に神は小さな感動を覚えた。


 絶望の中にも希望は必ずあるのだと異界の女神は笑う。


 この先この世界がどうなるのかは神にもわからない。

 出来ることなら幸ある未来になれば良いと神は見守ることにした。

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