ボッチナイト~ダンジョンで千年生き延びただけのソロ騎士、孤独を拗らせた最凶生物になってるのに、人類再興の希望と呼ばれてます

御手々ぽんた@辺境の錬金術師コミック発売

第1話 圧倒的孤独の終り

 男は、圧倒的に独りだった。


 親族はもちろんのこと、友人知人はいうに及ばず、一言、二言の言葉を交わす相手すらも長年いない、孤独。


 いわゆる、ボッチだ。


 しかしその孤独が、男を強くした。

 他の追随を許さぬ、それこそ孤高の域にまで達するほどに。


 そう、まさに、その男の手に握られた、剣のように。

 男の肉体と精神はひどく研ぎ澄まされていて、そこに触れるものがあれば、気づかぬうちに切れ落ちるほど、だ。実際、男が出会う生物で、男に恐怖しないものなど、ここ最近は存在しなかった。


 そんな孤独な男は今日も剣を片手に、廃墟と化した人家の町並みを歩いていく。

 その瞳は人類の敵であり、同時に男の獲物でもある、『声なきもの』を求め、油断なく周囲を探り続けていた。


 世界は、男の住む星は、かつて、まるごと一つのダンジョンに取り込まれていた。

 そしてダンジョンと化したがゆえに、これまでの生態系とは全く異なる様態の、敵が現れるようになっていた。


 それが『声なきもの』。

 ただその名は、他の人類と隔絶し孤独に生存してきた男が、勝手にそうと名付けただけだった。


 その時だった。


 崩落した人家の隙間ごしに、男の瞳が『声なきもの』の姿を捉える。それは二足歩行に、上半身から二本の触椀の生えた『声なきもの』としてはよく見るタイプだった。


 そこで、すっと男の目が細められる。

 空腹の衝動に突き動かされそうになる自身を抑える、それは反射的な動作だった。


 数えきれない数の『声なきもの』を狩り、腹におさめてきて男は、その『声なきもの』の僅かな動きの違いに、無意識のうちに違和感を覚えたのだ。


 そう、男と『声なきもの』は互いが捕食関係にあるがゆえに、基本的には互いが互いを襲おうと動くのだ。

 少なくとも、これまでは。


 しかしそれが、その時は違っていた。


 まるで男以外の獲物がそこにあるかのように『声なきもの』が行動していたのだ。


 そこまで考えが至った瞬間、男は駆け出していた。


 それは反射的な動きだった。

 男自身と、『声なきもの』。その二つ以外の者がそこにいるかもしれないという、予感。


 あまたの『声なきもの』を狩り、その経験値によってレベルアップという名の人体変異を経た男の体から、剣気と呼べそうな気迫が溢れる。

 剣気により強化された男の肉体による跳躍は、容易く崩落した人家をとび越える。


 そして、男は見た。


『声なきもの』により、いままさに捕食されようとしている存在。


 それは、ぼろぼろながらも、服と呼べそうな布をまとい。

 生まれてから一度も切られたことが無さそうなほど伸びた髪をたくわえている。


 そしてその伸びた髪の隙間から覗く、強い光を宿した瞳が、確かに男をとらえる。


 それは明らかに、人類種。

 人の仔だった。

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