2章・魔女のアビゲイル
お菓子の家
わたし、魔女のアビゲイルは今とてもとても困っております。
甘ーいお菓子をたんと使って作ったわたしのお家。
可愛くて美味しい、わたしだけの小さなお城。
そんなわたしの最高傑作たるお菓子の家、その外壁であるクッキーをボリボリとむさぼり食うふたりの少年が今わたしの目の前にいます。
「……ちょ、ちょっとちょっと! 何をしているのですか?! いくら美味しそうだからって人様のお家の壁を食べるだなんて正気ですか??」
杖をぶんぶんと振り回して少年らに近づいて行きますが、彼らはわたしのことなど無視をして今度は窓のアメをベロベロと舐め回します。
「こら、人の話を聞きなさい!」
ふたりの首根っこを掴んでお菓子の家から引き離します。少年らはじたばたと暴れましたので、仕方なく拘束の魔法をかけました。
大人しくなったふたりを見下ろします。わたしの腰ほどの身の丈の彼らは同じ顔をしており、それぞれ赤と青の髪色をしていました。……双子、でしょうか? いいえ、それよりも……。
「あなた達、人間の子ども──」
「おばさん、ぼくもサミーもお腹が減って仕方ないんだ。だからこのお家を食べさせておくれよ」
「お、おばっ……?!」
赤髪の子どもの言うことに驚愕していると、青髪の子どもがはぁとため息をつきます。
「ダン、確かに相手は年上ですが女性に対して“おばさん”は失礼ですよ? 例え本当のことでも口にしない、分かりますか?」
きみが一番失礼なのですが?! と突っ込みたかったのですが、口はぱくぱくと動くばかりで音を発しません。
「女性はいつまでも年若く見られたいものなのですよ、ダン」
「そうか。うん、学習した! サミーは物知りだな!」
わたしのことなど尻目に双子の兄弟達は楽しげに話をしています。
そろそろわたしも何か言わねばと思ったその時、気がつきました。少年らの服はぼろぼろで、腕や足は細く、頬は痩せこけていることに。
……ああ、口減らしか。胸がぎゅっと締め付けられます。
わたし、魔女のアビゲイルは今とてもとても困っております。
目の前の年端もいかない、親に捨てられた少年達をどう扱えばいいのでしょうか?
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