溺愛の理由

あおじ

1章・メイドのアビー

双子のご主人さま


 わたし、メイドのアビーは不思議で不思議でたまりません。


「さぁアビー、口を開けろ。ぼくがチョコを食べさせてやる」


 右隣に座る赤髪のダニエルお坊ちゃまが薔薇の形をしたチョコを摘んでわたしの唇へ押しつけてきます。


「チョコレートよりこちらはいかがですか、アビー。おれ特製のかぼちゃのパイです」


 そして左隣に座る青髪のサミュエルお坊ちゃまは一口分のかぼちゃのパイをフォークでわたしの口元へと運んでくるのです。


「サミー、今はぼくとアビーが楽しくお茶をしているんだ。空気を読んであっちへと行け、気の利かない弟だな」


「おや、それを言うならダンが席を外したらどうですか? 兄としての度量の見せ所だとおれは思いますよ?」


 わたしを挟んで坊っちゃま方は言い争いを始めてしまいました。


「確かにぼくらは2人でアビーを愛すると決めた。ぼくはお前もアビーも両方愛しているからな。だけど、たまには2人きりにしてくれてもいいだろう」


「それはきみだけでなくおれのセリフでもあります。3人仲良く、それもよろしいですが……たまには、ね」


「うむ、ならではアビーに決めて貰おうか。今日のティータイムはどちらと過ごすかを」


「そうですね、それがいいでしょう」


 そっくりで端麗な2つの顔がわたしを見る。その目はきらきらと輝いていて、互いに選ばれるのは自分だと思っているみたいです。

 なのでわたしはチョコレートとパイに同時に食らいついてから答えました。


「わたしはこれからお掃除があるので失礼させて頂きます」


 この答えが予想外だったのか、おふたりはぽかんとしています。その隙に素早くソファから立ち上がり、一礼してからわたしは部屋を出たのでした。



 わたし、メイドのアビーは不思議で不思議でたまりません。

 どうして坊っちゃま方は地味でのろまで可愛くもないわたしを双子の兄弟で溺愛してくださるのでしょうか?

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