第4話 理想像

「月に願ったら夜空から人が降ってくるなんて、なんだかファンタジーみたいで好きよ」


 カフェオレを飲みながら、左手には紅茶クッキーを持ち、彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「嬉しいね。けど忘れないで欲しいのは、これはミステリーというジャンルのお話という事さ」


 男は話を一旦止めて、美味しそうにクッキーを食べる彼女を眺めていた。


「空から降ってきたんだもの。不思議ね。黒也って何者なのかしら。続きを聞かせて」


「では、続きを話そう」




 二人は出会ってから、毎日一緒に過ごしている。


 兎白とはくの好きな冒険小説に黒也もハマり、ずっと部屋で読んでいるのだ。その姿を、兎白は鉛筆で描いていた。


 本当に二人は似た者同士で、大好物のハンバーグとか、外に憧れ鳥になりたい気持ちも、それからお互いの気持ちを理解し合えたり。


「黒也は僕の理想像だよ」


 真夜中、眠れないと言った黒也に兎白は言った。


 気持ちを理解してくれる理想の友達そのものである事、高身長で落ち着いた話し方も、兎白の憧れが全部詰まっているのが黒也だった。


「ずっと友達で居てね、黒也」


「あぁ、ずっと友達だ」


 黒也と過ごす毎日は楽しく、不満など一つもないが疑問があった。


「聞いてもいい? どうしていつもマスクなの?外してるところ見た事ない」


 疑問に思うのも無理はない。何故なら、黒也は自分の顔を決して見せる事はないのだから。食べている時は背を向け、寝る時もマスク。


「苦しくない?」


「それが俺だ」


 顔を見られるのはあまり好きではないと言う。

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