第2話

 家の近くの公園に、コートがあった。

俊太がそこでシュートの練習をしていると、ダムダム、と背後からボールの弾む音が聞こえてきた。


「練習中になんか騒動があったみたいだね。あれは、何だったの?」

 颯爽と現れた翔子が、すぐさまレイアップシュートを放っている。

彼女の黒髪が、ふわりと揺れている。


「凜と太地の喧嘩だよ。だけど、大丈夫。常に無心でいれるよう、心がけているから」

「私は無心の俊太、あんまり好きじゃないかなあ」

「まあ、どっちにしても、これはまだ幸せな方の悩みなんだ。翔子は気にしなくていいよ」


 レイアップシュートを決めきった翔子が着地した姿勢のまま、固まっている。

顔だけを俊太の方に向け、首を傾げていた。


「なに。もっとひどい問題でもあるの?」

 凜や太地が、翔子のことを本気で好きだとは考えにくかった。

絶対に、なにか裏がある。


「いや、大丈夫。きっと気のせいだと思うし。食堂の福新漬けも美味しかったし」

「本当に、好きだよねえ。私も俊太のせいで最近、福新漬けをよく好んで食べるようになっちゃったよ」

「あれだけ前は、福新漬けのことが嫌いとか言ってたくせに?」

「一時期、福新漬けが俊太の化身みたいに見えちゃってさあ」

「え。じゃあ、翔子から嫌われてた時期があったってこと?」

「さあ、それはどうでしょうかねえ?」


 俊太は心を落ち着かせるようにして、スリーポイントの練習を、する。

外した。


 毎週、同じ呼吸で、同じ息遣いで、同じ時間に。

俊太は翔子と一緒に、公園で練習を続けていた。翔子とは、家も近い。

小学校から、ずっと一緒の学校だった。

ただ俊太が進学を決めた高校は、家から遠かった。

 だから流石に、高校では離ればなれかなあ、と思い、餞別のつもりで、俊太は鶏のキーホルダーを翔子にあげていた。


 だが結局、蓋を開けてみると、翔子は同じ方向の電車に乗っていた。

 一緒の高校だった。


「ねえ、ちょっと話があるんだけど?」

 しばらくして翔子からの問いかけが、あった。

練習中に、話しかけてくるのは珍しい。

 俊太は練習する手を止めずに「なに?」とだけ聞いた。

またシュートを、外した。


「太地からデートの誘いを受けたんだよ」

 淡々とシュートを打ち続けながら、翔子は前を見たまま、言った。

横顔が、綺麗だった。

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