第22話 どの展開なら愛せたでしょうか 5

映像は続いていた。


愛花と呼ばれていた少女は、呼びかけで目を覚ます。


【クスノキ?さん?】


クスノキは胸元についた名札を見る。


『クスノキ』と記された名札を見て、アカシが訊ねる。


【いま目が覚めたのか?クスノキさん】


【……ここ、どこですか?】


ここはね、と辺りを見回すアカシ。


【地獄なんだわ】


【地獄!やっぱりかぁ……】


【やっぱり、って……そんな自覚あるほど悪いことしてきたのかよ】


【うん、まぁ、心当たりはあるかな】


クスノキが手足に力を込める。


すっ、と持ち上がる身体。


【立てた!立てたよ!】


ねぇ、アカシ?さん!とアカシの名札を見て叫ぶクスノキ。


【そりゃ、立てるだろ。変な奴だなぁ】


周囲をくまなく見回すクスノキ。


地獄というには穏やかな風景。


草木が生い茂り、小高い山々からは透き通る川が流れている。


【ほんとに地獄?】


【びっくりするよな。

まあ、ここの管理者の趣味なんだと。

清らかな景色が清らかな精神を作るとかなんとか】


胡散臭いよな、とアカシが笑う。


【もうちょっと行ったとこに他の奴もいるぞ】


【私たち以外にもいるの?】


【いるよ。変な奴らだけど、まあ】


悪い奴らじゃない、とアカシが付け足す。


【悪いことしたから地獄に、じゃないの?】


クスノキは躊躇いがちに笑う。


【いろいろ事情があるんだよ】


ま、行こうか、とクスノキに手を差し伸べるアカシ。


クスノキは、その手を恐る恐る握る。


【え?そんな怖がられることしてる?俺】


【違う、違う。こういうの初めてだから、さ】


【こういうの?】


【誰かと話すとか、誰かと手を繋ぐとか】


色々あったんだなお前も、と遠い目をするアカシ。


クスノキは、


【そうだ!走ろうよ!アカシくん】


【は?なんで……って、ちょっと待て!】


アカシの手を強く握って、クスノキは走り出す。


少し柔らかい地面の感触が心地よくクスノキを包む。


背の高い草木に手が触れる。


草木の冷たい感触が手に残る。


アカシと繋いでる方の手が熱い。


息があがる。


景色がどんどん変わっていく。


【アカシくん!】


【なんだよ。クスノキ】


走るの速いよ、と愚痴をこぼすアカシ。


【走ってる、わたし!】


【は?ああ、走ってるな】


【友達と一緒に、走ってる!】


【友達認定早いなお前】


【走れてる……】


【お前……】


クスノキは涙が止まらなかった。


泣きながら笑っていた。


【生きてる!】


【死んでるわ】


【それでも、生きてるって感じなの!】


【また変な奴が増えたか……】


ぐんぐん進むクスノキとアカシの前に、


【ちょちょちょ!アカシさん何やってんすか!女の子振り回して】


クラタが両手を広げて立っていた。


【お前さ、見てわかんねぇか?振り回されてんの、俺!】


【アカシさんが女性と淫らな行為を……データに追加】


【タミヤよ……追加すんな。あと淫らなのはお前の頭の中じゃねぇのか?】


岩陰に隠れてクスノキを見るユラ。


クスノキがユラに近づき名札を確認して、声をかける。


【ユラさん?はじめまして!】


【元気な子!……怖い】


いやぁーーと叫びながら走って逃げるユラ。


【騒がしくてごめんな】


アカシがクスノキに謝罪する。


ポロポロ、と涙をこぼすクスノキ。


【あー、アカシさんが泣かした!いけないんだぁ】


クラタがアカシを茶化し、


【女を泣かす男、アカシさん……データ化しないと】


タミヤがキーボードをカタカタ鳴らす。


【お前ら、面白がってんな?】


皆のやり取りを見て、今度は笑い出すクスノキ。


【楽しいね】


【楽しい?】


【楽しいよ!話せて、笑えて、泣けてるわたし。嬉しい】


情緒不安定さん、っすか?とクラタがいぶかしげにクスノキを見ている。


【変な奴】


そう言ってアカシも笑う。


つられてクラタも【変、っすね】と笑う。


【わたしさ】


【なんだ?クスノキ】


【ここに来れて良かった】


クスノキは大の字になって寝転ぶ。


空が高い。


クスノキは地獄と呼ばれる場所で、命を得た。


【変な奴】


と言って皆が笑っていた。

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