第14話 愛されなくてもお赦しください 2

幽螺ゆらはさながら神のようにまつられていた。


毎食豪華な食事を与えられ、すみか以外は恵まれた生活を送る幽螺。


若草じゃくそうの呪いを抑え込む力、幼きころから大人のように動き回れる身体能力。


神の子ですよ!奥様!と食事を運んでいた老人(お手伝いさん)が諭したことで座敷牢の守り人となったユラの前世幽螺。


毎日祈りにくる村人は絶えず、幽螺はあくびを堪えて対応していた。


【はい、はい、いいことあるよー。知らないけど】


対応は雑だが、幽螺が発する一語一句に感嘆の声をあげる村人たち。


【助けてやる!助けてやるぞ幽螺】


下元気が決意だけを持ったまま、三年の時が過ぎた。


「いつまで宗教ごっこ見なきゃいかんのだ」


「ア、カ、シ、さん、し宗教ごっこって。ふふふ」


ウケを狙ったわけじゃないのにマミヤが腹を抱えている。不本意だ。


「しばらく動かなそうだねこっち」


クスノキは始まらないラブロマンスに不機嫌だった。


「そろそろ蔵田さんのほうに動きがあります」


とりあえず下元気のインパクトから思考を逸らしたい。


「早く見ましょうマミヤさん」


「アカシさん……いつになく積極的ですね」


そうではなくてさ。


蔵田の世界が画面に映る。


【姫ちゃーん。お弁当忘れてるよ】


【ありがと、ママ】


「蔵田さんは三十六歳、娘の姫奈ひめなさんが十三歳を迎えた頃ですね」


マミヤが目を細めて牧歌的な生活を見守る。


蔵田麻里奈の表情はかつてとは比べられないほど穏やかになり、娘の姫奈はハツラツとした元気な女の子だった。ダメだ、何かがよぎる。


「早川さんは姫奈さんが産まれるとわかってから、身を粉にして働きました。そして、家族のために一軒家を買い、穏やかな暮らしを手に入れたのです」


【パパ、今日も帰り遅いの?】


【んー、どうだろう?またメッセージ送っとくから……あ、ほら早く行かないと遅刻だよ】


【はーい。行ってきまーす】


【車に気をつけてね。行ってらっしゃい】


「平和だね。幸福っぽい」


よくわかんないけど、とクスノキが呟く。


「ここまでは順調だったのです。早川家は」


「ここまでは、ってことはマミヤさん……」


画面が切り替わる。


【うるさいよ。あんたなんか産みたくて産んだんじゃないから!】


推し黙る姫奈を恫喝する蔵田麻里奈。


髪もボサボサになり、やつれた蔵田麻里奈。


住まいは清潔だった一軒家からボロアパートに変わり、蔵田麻里奈の目の前には酒の空き缶が乱雑に転がっていた。


「一年後、彼女たちの崩壊が始まりました」


「一年でなんでこうなる」


「早川さんが強盗傷害で捕まりました」


「何やってんだ早川」


姫奈は十四歳。


母親との口論が絶えぬ日々が続き、次第に親子の交流はなくなっていく。


「早川さんは上原さんからの誘いにのってしまわれたのです」


「あのおっさん何やった」


「闇バイト」


「おっさん……」


簡単な仕事なんだよ、早川、ローンとか大変だって聞いたぞ?

どうだ、一緒にやらないか?


六十代を迎えても仕事をしていないおっさんに、簡単に籠絡された早川。


民家に侵入し、住人に暴行を加えた罪でお縄となった。


「早川さんは懲役二十年の刑となり、蔵田さんは離婚を決意します。姫奈さんと共にアパート暮らしとなりました」


最初は良かったのです、とマミヤが言う。


「姫奈さんがチャラい大学生につかまり、夜遊びを始めるまでは」


なんかこう、下元気とかのほうが平和だったな、と思い始めてきたわ。


「身を粉にして働く蔵田さんをよそに、どんどんチャラい大学生に惹かれていく姫奈さん。そして決定的だったのは、蔵田さんが貯めていた生活費を姫奈さんが大学生に献上していたこと」


「献上って……貢いでたってこと?」


「はい。大学生は大学生ではなく、売れないホスト崩れで、姫奈さんから金をむしり取るようになってからは無職となりました」


無職多くない?この世界。


「それを知った蔵田さんは絶望してしまいます。崩壊していく感情の中、蔵田さんがすがった希望がこちらです」


マミヤが画面を切り替えた。


【生命の煌きを感じてください。このパワーを込めた宝石には龍神様の力が宿っています。あなた方は救われます!赦されます!】


唾を撒き散らし、白いスーツの男が唸っている。


【ドラゴンエナジーーーアルティメットライズ!!!】


必殺技かな?


白いスーツの男に習って叫び声をあげる百人近くの老若男女。


その中に、蔵田麻里奈の姿があった。

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