第4話 マネージャー

「さて、来たわね、白兎」

「……おはようございます」

「眠そうな顔ね、それじゃあ、仕事、始めましょうか」

叔母さんが何やらファイルみたいなものを抱えて持ってきた。

「これは?」

「あんたが担当するアイドル達の資料よ、主にあの子達の仕事内容とか、そういうのが書かれてる。これを一読しておいて」

「了解」

「それと、あなたはマネージャーである矢那咲のサポート、そして、アイドル達のサポート、この2つが主な役割だから、しっかりね?」

「……うす」

資料に目を通すと、細かいところの仕事内容まで書かれていた。

(あのアイドル達、皆そこまで活躍してない感じか……なら、俺でもいけるか)

手伝うだけなら、学校の空いた時間で出来るから、まだ、楽な方だと思った。

「ま、白兎からしたら簡単だと思うけれど」

「まあ、そうだな……比較的簡単だと思うけれど」

「あと、これはあなたと私だけの秘密なのだけれど……」

「???」

何やらいつも以上に真剣な表情をしていた。

「あんたにボディーガードの役割をお願いするわ」

「………へ?」

俺の耳が変な言葉を聞き取ったのだが…

「聞こえなかったかしら?あんたにボディーガ……」

「聞こえてるよ!!ボディーガードだって?!何で俺がそんなことしなくちゃいけないんだよ!」

「だって、あんた強いじゃん!お祖父さんにも指導してもらってるでしょ?」

「……そうだけれど……だからって、俺を使うなよー」

「他の人に頼むとお金払わないといけないからさー」

「ん?待て待て、お金?俺、まさか払われない感じ?」

「え?そうよ」

「……バカなの?」

「何ですって?!」

なんか急に怒り出したけれど、何でこの人が怒っているのか分からなかった。

「いや、何で俺、お金もらえないの?ただ働き?ふざけんな!」

「だってー身内の頼み事よ?そんな頼み事なんだからー」

「ふ・ざ・け・る・な!働かせるならせめてバイト代!」

「ぶーーーーー!!」

めっちゃ不貞腐れた顔をして、抗議の目で俺を見てきた。

(いや、そんな顔しても無理だし、何でただ働きでも大丈夫だと思っているのか……はぁ…)

「話を戻すわよ…ボディーガードの件やってくれるわよね?」

「……お金が発生するならね…てか、じいちゃんの許可は出てるのかよ」

「ええ!許可済みよ」

「はぁ…最悪だわ、仕事増えた―!!」

顔に手を置き、天を見上げた。

このとき、俺は思ってもいなかった。ボディーガードの仕事が一番しんどいってことを……


次の日……

バンッ!!

「おっはようございまーす!!」

「おはようございます…」

勢いよく事務所の扉が開いて、二人のアイドルが姿を現した。

一人は小雀 林、あの僕っ子スポーツ女子だ。朝だというのに元気らしい。もう一人は、黒影 南、クールな雰囲気の美人だった。

「おはよう二人とも!林ちゃん土曜日だけれど元気ね」

「もちろん!僕はいつでも元気なんですよー!!」

「うるさいぐらいですけれど……」

「南が静かすぎるんだよー!!」

二人が何やら言い合いを始めてしまった。

「うるせえわ、お前ら」

「「!!!」」

二人が驚いた様子で俺を見てきた。

「サポーターくん!!おっはようー!!」

「……なんであなたが」

小雀は元気よく挨拶をしてくれたが、黒影は不機嫌な顔をして俺を見てきた。

「俺がいたら悪いのかよ……ったく…おはようございます。矢那咲さん」

「み、翠ちゃん!!……いつの間に…」

「おはようございます……」

事務所の扉の前で立ち止まっていたから挨拶した。二人も気づいていなかった。まあ、そりゃそうだ。さっきからずっと扉の前に立ち続けているのだから。後ろにいるなんて分からないだろう。

「おはよう二人とも!あと、雨宮君、来るのが早いのね」

「いえ、母さんと叔母さんに起こされただけですよ」

今の時間が8時30分だ。今朝、夏姉さんの弁当を作るために起きていた母さん。ドタバタしすぎてその音が二階にいた俺の耳に聞こえていて、そのせいで寝られねかっただけなのだが。今日は仕事だから、早く起きて事務所に行こう、そう思って来ただけだった。ちなみに、叔母さんはまだ寝ている。

「翠ちゃん、何でずっとそこにいるの?」

小雀さんが矢那咲さんに向かってそう言った。

「えっと……」

矢那咲さんは困ったような顔をしていた。

「いや、お前らが扉の前にずっと立ってるからだろ。どけろよ」

「え?……あ」

やっと気付いたようで、すぐに扉から離れた。

「ごめんー!翠ちゃん!」

「いえ、大丈夫ですよ?」

苦笑いしながら椅子に座る矢那咲さん。

(この人も苦労人かもな)

そんなことを思った。


「これ、矢那咲さんに渡しておきますね」

椅子に座った矢那咲さんにあるものを渡した。

「これは……」

「資料です、4日後のイベントの」

「!!!も、もう用意してくれたの?」

「えっと、もう用意しておかないと間に合わないと思ったので、早すぎました?」

「ううん、全然!!私たちが遅かっただけで……」

「なら、いいんですが……ってこれで早いなら、いつもどれぐらい前に用意してるんですか?」

「えーっと、いつもなら2日前かな?」

「は、はああああああ?!」

びっくりしすぎて椅子を倒してしまった。

「いやいやいや……2日前ってそんなの無理じゃないですか!アイドル達にそんなギリギリで知らせないでくださいよ!!」

「ご、ごめんなさいーーーー!!」

翠さんがペコペコと頭を下げていた。

「はぁーー大丈夫か?この事務所」

あまりの出来なさに呆れていた。

「大丈夫だよ!だって僕たち、完璧なアイドルだからね?」

「…………」

ジト目で小雀さんを見た。

「な、何だよー」

「……どこが?」

「え?」

「どこが完璧なアイドル?ポンコツアイドルの間違いだろ」

「なっ…!!ち、違うし!!」

顔を真っ赤にして反論してきた。

「僕たちは完璧なんだよ!ほら、可愛いでしょ?」

なんか、ポーズ取っているのだが…

「外見からポンコツなんだよ!何だそのTシャツは!」

小雀さんが着ていたTシャツは、アホな顔をしているアヒルが真ん中に印刷されていた。結構ダサかった。

「うえええええええええええ!!!こんなに可愛いのに!!」

「いや、どこをどう見たら可愛く見えるんだよ。お前の目は節穴か?」

「なっ…!そんなことないよ!!僕は節穴じゃない!そっちこそ目がおかしいんじゃない?こんなに可愛いのに!」

「はぁ……ダメだわ」

「ムムムムムム……」

小雀がめっちゃ睨んできたが、俺は無視した。


「よし、それじゃあ、雨宮くん4日後のイベントを私と一緒に行きましょう」

「はい、分かりました。って4日後?!」

「ええ……用事か何かあった?」

「いえ、無いんですけれど、4日後……時間がないと思うんですが…」

「大丈夫!何とかなる!」

(この人も叔母さんと一緒か……マイペースすぎる…)

ため息を吐きながら、俺は4日後のイベントについて矢那咲さんと話し合った。


◾️????

コンコンコン…

「入れ」

「失礼します」

あるビルの一室に男が入って来た。

部屋の中には、社長室のような空間があり、奥に進むと、そこに椅子にドカッと座っている男がいた。紫色のスーツを着て、ワインを左手に持ちながら、入ってきた男を見ていた。

「???様、イベント内容の資料でございます。」

「ん?あのイベントのか…ふむ…このイベントには?」

「はい、あのアイドル達を行かせるつもりです」

「そうか……まあいい…それはそうと、あの事務所の様子はどうだ?潰れかけの事務所だ、もう、無くなっていてもおかしくないが…」

「はい、実はその事務所で動きがありまして」

「何?」

「何でもアイドルのサポーターなる者が入社したと」

「サポーターねー、そんな奴が入ったところで、活躍などはできないだろう」

「そう思います。」

「とりあえず、奴らの動きをよく見ておけ、いざという時に動けるようにな」

「御意」

資料を持ってきた男が部屋から出て行った。


「ふん!奴らが何しようと俺らが潰してやるよ!がははははは!!!」


※あとがき

4日後のイベント、成功なるか?!

そして、アイドル達と仲良くなれるのか…


何だか悪そうな人物、一体彼らは?


次回、イベント

お楽しみに



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