第2話
私は昔から素直な子だと褒められながら育ってきた。
好きなものは好き。嫌いなものは嫌い。はっきり言うことが美徳だと信じて疑わなかった。
異変を感じたのは、短大生として過ごしていたときだった。
学校でできた友人達といつも通り遊びに出かけたとき、髪形をガラッと変えてきた子がいた。
当然みんなはその変化を褒めた。
仲良しの友達グループとはそういうものだからだろうか。
けれど、私はそうは思わなかった。
以前までのロングヘアが似合っていたと思ったから。
「えー?前の髪型の方がよかったじゃん!
今より絶対可愛かったよ!!」
たったこの一言で私の人生が積み上げてきた"私"という人格は否定された。
その子はポロポロと泣き始め、周りの友人は私のことを強く罵った。
それ以降、そのグループにはいられなくなった。
私が積み上げてきた美徳と思っていた性格は、大人の社会では通用しなかった。
友人関係もお世辞を言うことが大事だし、就活面接では私の本質を隠すことが正しいと理解した。
しかし、私にはできなかった。
素直に生きることしかしてこなかったから、本心の隠し方も取り繕い方も何も分からなかった。
もう何も無くなってしまった。
就職もできない、アルバイトだって全く続かない。
大学生活終盤を失意の中過ごしていた。
そんな時に、私は佐藤さんに出会った。
「いいね、すっごい素直じゃん。
俺は凄く良いと思うし、そういう態度が好きなお客さんは多いと思う。
アルバイトの経験も少ないみたいだけれど、うちで少し頑張ってみないか?」
面接という場ではあったが、私の本質を褒めてくれる人と、久しぶりに出会った。
彼だけは私のことを理解し、褒めてくれた。
積み上げてきたものを肯定してくれる彼に強く惹かれた。
何も出来ない自分に絶望していたから、必然だと思う。
彼が結婚していて、幸せに暮らしていることはよく分かっている。
けれど、この好意を素直にぶつけることは間違っていない。
だって彼は、素直な私を良いと言ってくれたから。
受け入れてくれたんだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます