小さな天使

みずとき かたくり子 

公爵家のリリス

第1話 運命の出会いとほのぼのライフ



秋の風が森を駆け抜ける、ある日の午後。公爵夫妻は日常の喧騒から逃れるように、森の中を散策していた。紅葉が美しく彩るその森の奥で、二人は思いもよらぬ光景に遭遇する。


白いノースリーブのワンピースを着た、儚げな少女が一人、静かに立っていたのだ。まるで森に溶け込むように、彼女はその場に佇んでいる。


「ねえ、あなた。あの子…まるで森の妖精みたいじゃない?」夫人が小さく囁く。その声には心配と興味が入り混じっていた。


「確かに…あんな場所に一人でいるなんて、何か事情があるのかもしれないな。」公爵もまた、その少女に強く惹かれるものを感じている。


二人はゆっくりと少女に近づき、優しく声をかけた。「君、どうしてここにいるんだい?迷子かな?」


しかし、少女はただ静かに彼らを見上げるだけ。言葉を発することなく、大きな瞳でじっと見つめ返してくる。その瞳には、何か深い知恵と優しさが宿っているように思えた。


「言葉を話せないのかしら…」夫人は少し戸惑いながらも、自然と彼女の手を取る。その手は小さくて温かく、夫人はその瞬間、何か運命的なものを感じた。


「この子を私たちの家族に迎え入れましょう。」夫人の言葉は確信に満ちていた。公爵もその提案に頷き、二人はこの少女を家族に迎える決意を固める。


こうして少女は「リリス」と名付けられ、公爵夫妻の家に迎え入れられることになった。リリスは言葉を話さないが、その存在はまるで太陽のように温かく、公爵夫妻の心を優しく包み込んでいく。


リリスが来てから、公爵領はさらに豊かで平穏な日々を迎えている。まるで彼女が幸運をもたらしているかのように、すべてが順調に進んでいるのだ。


ある日の午後、リリスは庭のベンチでお昼寝をしていた。柔らかな陽光が白いワンピースに反射し、彼女の髪を金色に輝かせている。風が木々を優しく揺らし、葉のざわめきが心地よいBGMのように庭に広がっていた。


リリスが静かに眠りにつくと、どこからともなく小鳥たちが集まり始める。彼女の足元やベンチの背もたれには小鳥たちが止まり、いくつかはリリスの頭や肩にそっと羽を休めている。その光景はまるで童話の一場面のようで、リリスの周りには穏やかな調和が漂っていた。


少し離れた場所からその様子を見守る公爵夫妻は、自然と手を取り合う。


「見て、彼女は本当に特別な子だわ。」夫人は微笑みながら囁く。


「そうだな、リリスが我が家に来てから、ここはさらに温かくなった気がする。」公爵も穏やかに答えた。


こうして、リリスが公爵夫妻にとってどれほど大切な存在であるかが強く感じられる日々が始まった。しかし、二人はまだ知らないのだ。その穏やかな日常に、やがて試練が訪れることを…。

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