探し物とガトーショコラ④
「なんで図書室なの?」
「なんでってとりあえず会わないとだし」
昨日言ノ葉さんと連絡先を交換し学校以外でも互いにやり取りができるようになったのだが、開口一番彼女は今日の待ち合わせ場所を図書室に指定してきたのだ。
「いやいやそういうことじゃなくて、わざわざ旧校舎の方で待ち合わせしなくても僕か言ノ葉さんが互いの教室に行けばよくなかった?」
「うーんそうだけど、なんか図書室での待ち合わせに憧れてたから一度やってみたかったんだよね」
「なにそれ。それに教室もどうせ探すんだから離れるの非効率だと思うんだけど」
「えー遠いい方から探した方が後々楽かなって思って....ダメだった?」
図書室も美術室も旧校舎にあるということで結局のところ旧校舎には向かう訳だが、いちいち往復するのが非常に面倒くさい。だからこそ最初に教室を探した方が時間的にも体的にも楽な気がすのだが。
「まあ来ちゃったものはしょうがなからいいや。それで探す場所は美術室でいいんだよね?」
「うん、その後に教室に向かう感じで」
美術室に向かう空気になったのだが、言ノ葉さんは行こうとする気配はなくグランドをみながら座り続けている。
「それにしても昨日の達右くんが作ったガトーショコラ美味しかったな〜。なんていうのかな生チョコとはまた違ってとろけるって感じはないんだけど、だけど普通のチョコケーキとも違う感じ。それでいてしっとりしていてカカオの香りも物凄くてそして最後にラム酒の香りが鼻を抜けるのがもう最高だった」
「それ昨日何回も聞いたし、感想がやけに長いね。食レポできるんじゃない」
昨日言ノ葉さんは作ったガトーショコラの半分を平らげてしまった。正直ガトーショコラはそんなにいっぱい食べるものではないとは思うのだが、ここは流石お菓子好きと言わざるを得なかった。
「ええーほんと!ありがとう」
「別に褒めてない。それに僕も焼き加減成功して良かったよ。ちょっとでもミスすると中の水分飛んでパサパサになっちゃうし、逆に早すぎすると生焼けになっちゃうからさ」
「確かにきのう食べたの絶妙なしっとり感だったもんね」
言ノ葉さんは昨日のことを思い出しているのか、やけに表情が柔らかだ。
「そうだね」
「おお言ノ葉ここにいたのか」
後ろの方から低い声が聞こえて、振り返ると背の高い男子生徒がそこにいた。
「何か用?馬場くん」
一瞬、言ノ葉さんの目付きが鋭くなったような気のせいだろうか。
「いつもみたいに少し話したかったんだけどお前が颯爽と帰るから探してたんだよ」
「言ノ葉さんの知り合い?」
僕はタイミングを見計らって男子生徒との関係を問いかけた。
「ああこの前教科書貸してくれてるって話した馬場くん」
「はじめまして、馬場日向です」
馬場くんは人相が少し怖いということもあるが妙に威圧的な態度に感じた。
「はじめまして、言ノ葉さんから色々話は聞いてる、僕は達右結斗よろしく」
馬場くんの風貌どこかで見たことあるような.....
「あれ、どこかで会ったことあったっけ?」
「いやねーと....思うけど」
いやどこかで....
「あっ、この前旧校舎で会った」
そう旧校舎の階段でぶつかりそうになった生徒だと思い出す。だがあの時抱いた第一印象とかなり違う。
「なに?達右くん、馬場くんと知り合いなの?」
「知り合いっていうか旧校舎でちょっと」
「あーあのときあったやつか」
僕の話を遮るように馬場くんが割って入ってくる。
「でもさっき馬場くんはじめましてって言ってなかったっけ?」
「一回しか会ったことなかったから思い出せなくてさ、ちょっとすると思い出すみたいなことあるだろ」
「あるけど。で馬場くんは私に何の用なの?これからちょっと用事があるから手短に済ませて欲しいんだけど」
「ああそうか。じゃあまた今度でいいや」
馬場くんの用事は重要なことではなかったらしい。
「でも達右と言ノ葉が一緒にいるってことはよこの後二人でどっか出かけたりでもするんだろ?」
「出かけるっていうか、言ノ葉さんの探し物を見つける約束しててそれを探しに」
「探し物?」
「達右くん私が説明するから」
言ノ葉さんの方を向くと先程の柔らかい表情とは打って代わり目には力がもこっていた。
それに先程から声が妙に棘がある感じが否めない。
「私最近教科書なくなっちゃってそれを達右くんに探すのを手伝ってもらうって約束してたの。それで今から探しに行くとこ」
「言ノ葉教科書なくしてたのか、てっきりずっと忘れてると思ってたわ」
言ノ葉さんはなぜ馬場くんに教科書を忘れたことを伝えていなかったのだろうか。普通何かを借りるのであれば理由を述べて借りるのが筋だと思う。それに馬場くんも馬場くんで言ノ葉さんが教科書を持ってきていない理由を尋ねていなかったのも妙に引っかかる。
「あれ、私言ってなかっっけ?」
「言ってないな、俺は毎回持ってきてないもんだと思ってたから」
「そっか、いつも見せてくれてありがとね」
「いいって俺が好きで見せてるんだし」
「それじゃあ私たち行くから」
そういうと言ノ葉さんは席を立ち出口の方へ向かおうとする。僕も慌てて席を立つ。
「待てよ、俺も一緒に探しに行く」
図書室の出口はひとつしかなく言ノ葉さんの行く手を阻むように馬場くんが通路を塞ぐ。
「馬場くんに手伝ってもらうのは気が引けるから気持ちだけ受け取っておくね」
彼女は馬場くんの横を通ろうとすると馬場くんは腕を伸ばし言ノ葉さんの行く手を阻んだ。
「遠慮するなっめ、この後俺なんも予定ないから気にすんな」
二度引き止めて協力しようとする姿勢は確かに彼の優しさなのかもしれないが強引な気もする。
「そう?うーんじゃあ手伝ってもらおうかな」
「任せろ」
言ノ葉さんは馬場くんの強引さに諦めたのか彼の提案を受けいれることにしたらしい。
「達右もそれでいいだろ」
「僕は全然、人が多い方が見つかる確率高くなるし」
「決まりな、でどこ探しに行くんだよ」
「とりあえず美術室から向かおうって話をさっきしてて」
「美術室ってことは美術の教科書がないのか。でもよ美術は移動教室だろ、だから教科書とか忘れたら普通気づくと思うからよ美術室にはないんじゃねぇーか?」
確かに馬場くん言う通りで僕もそう思っていた。だが、ある可能性もなくはないので候補から外すは得策ではない。
「いやそうかもしれないけど、言ノ葉さんがうっかり忘れちゃった可能性もあるし探した方がいいと思う、ね言ノ葉さん」
「そうだね、私が忘れていても忘れていなくても探した方がいいとは思う」
「それじゃ俺が一人で美術室行くから二人は先に教室向かえよ。手分けした方が早いだろ」
手分けした方が僕も早いとは思うが旧校舎まで来てしまった以上三人で向かって探す方が効率的だろう。
「別れる意味あるかな?もう旧校舎いるんだし三人で行った方が良くない?」
「別れた方がいいに決まってる、だから俺一人でいい」
「言ノ葉さんはどう思う?」
「達右くんの言う通り三人の方がいいと思う」
「言ノ葉がそう言うなら」
数の力に負けを認めたのか馬場くんは渋々僕の提案を飲むことになった。
「それよりも達右くんさっき私を忘れ物常習犯だと思ったでしょ?!そんなことないんだからね」
「いや可能性を指摘しただけで」
馬場くんは珍しいものでも見たような表情をしている。
「あれ馬場くんどうしたの?」
「いやなんでもない、いいから行こうぜ」
馬場くんはそう言うと颯爽と図書室を後にする。
「どうしたんだろ?まあいいや僕たちも行こっか」
「うん」
その後を追うようにして僕と言ノ葉さんも図書室を退室した。
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