藤嶌古書店9
「まぁ、地道に行くしかないんじゃない」
「……そうだね」
河瀬さんは、どこまで『イワナベミズコ』に近付けたのだろう?
私の持っている情報だけでは、まだ先は遠い印象だ。
『イワナベミズコ』に関する謎は、予想以上に深い。
でも。
「でも、大きな一歩……いや、最大の功績は得られた」
言って、私はユーレイ君を見る。
私の視線に気付き、ユーレイ君は「何?」とでもいうように視線を持ち上げる。
「『イワナベミズコ』を追い払う方法がわかった。これ、かなり重大な収穫だよ」
「……そう」
「ユーレイ君のお陰だね。本当にありがとう」
私はユーレイ君に頭を下げる。
お世辞とかじゃない。
ユーレイ君がいなければ、私は本当に死んでいたかもしれない。
死んでいなかったとしても、『イワナベミズコ』に取り込まれ、“真っ赤な人”の一つに変えられていたかもしれない。
「正真正銘、ユーレイ君は命の恩人だ」
私の発言に、ユーレイ君は居心地悪そうに眉を顰め、視線を逸らす。
「大袈裟だね。『イワナベミズコ』は“真っ赤な人”だけじゃない。“カタツムリ”に関しては、正体も対策はまだわかっていない。安全からは程遠いよ」
「それでも、何も分からないまま『イワナベミズコ』に支配されちゃう危険からは逃れられる。ねぇ、ユーレイ君。この情報、今まで私に怪談を提供してくれた人達に共有してもいいかな」
『イワナベミズコ』と関わったが為に、私は『イワナベミズコ』に近付かれてしまった。
ならば、同じように『イワナベミズコ』と接触した人達も、『イワナベミズコ』に襲われる可能性が高い。
「ユーレイ君の名前は出さない。あくまでも私が突き止めた対策法っていうテイで共有するだけだから。どうかな?」
「まぁ、俺は別にいいけど……」
そこで、だった。
ユーレイ君は、自身のアウター――パーカーの前ポケットから、スマホを取り出す。
「? どうしたの?」
「もう、そういう段階の問題じゃないかもしれないって話」
言いながら、ユーレイ君はスマホの画面を私に見せる。
それは、あのYouTuber――カルタが直近で配信した動画だった。
シークバーの移動と共に再生されていく動画。
内容は、『イワナベミズコ』に関する特集番組。
カルタとその仲間達が、『イワナベミズコ』がネット上で大きな話題を呼んでいる事で盛り上がったり、視聴者からの反響なんかを紹介している。
……なんていうか。
「『イワナベミズコ』について調べてるっていうより、自分達が巻き起こしたブームを喜んでるみたい……」
「まぁ、そりゃそうでしょ」
彼等にとっては、『イワナベミズコ』は動画のネタの一つでしかない。
そもそも、その根源となる情報自体、河瀬さんから奪ったものである可能性が高い。
彼等はそういう存在だ。
わかっている。
わかってはいるけど……。
「何だか、危ない予感がする……」
「その感覚、正解」
「え?」と、私が呟くと同時だった。
動画の最後に、カルタが視聴者に呼び掛けた。
――今まで集めた情報から考察するに、“赤鬼”や“触覚人間”に遭遇したら、恐れず自分から立ち向かう事が重要だ。
――逃げようとしたり無視したりするのが、一番危ない。
――もし、『イワナベミズコ』と遭遇し、勇敢にも立ち向かった人がいたら、その結果を是非教えてほしい。
そう言ったのだ。
「ちょ、ちょっと!」
「見当違いも甚だしいけど、更に盛り上がるネタを求めるなら、そりゃあこう呼び掛けるよね」
ユーレイ君がスマホをしまう。
遅かった。
事態は、私が恐怖で動けないでいる内に、想定より早く進展してしまっていた。
「今の動画、いつ配信されたの?」
「二日前、だったかな」
もうかなり時間が経ってしまっている。
私は考える。
このままでは、更に被害者が出る。
そもそも、『イワナベミズコ』の隷属者が増える事が、良い事だとは到底思えない。
私は自身のスマホを取り出す。
SNSを開き、自身のアカウントのページを操作する。
「どうするの?」
「手遅れになる前に、今できることをするしかない」
私は言う。
「『イワナベミズコ』に関する正しい対処法を、私のSNSから広める。カルタの言ってるやり方は、間違ってるって」
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