第2話 ゴロツキと神の出会い

 沢渡龍二、18歳。彼の日常は喧嘩だ。キレやすく、喧嘩は負けなし。夜の繁華街に繰り出しては、不良外国人やヤクザとまで喧嘩をする始末。それでも龍二は向かうところ敵なし。周りからは恐れられ、半ば持て余されていた。


 その日も、龍二は繁華街で因縁をつけられたヤクザを伸し、気分良く夜風に吹かれていた。その時、ふと、視線を感じた。


「おい、てめえ」


 振り返ると、そこに立っていたのは、いかにもエリートそうな優男。銀縁の眼鏡をかけ、高級そうなスーツを身につけている。龍二は思わず眉をひそめた。


「なんだ、てめえ。俺に用か?」


 男は落ち着いた声で言った。


「君、沢渡龍二くん? 少し、僕と勝負しないか?」


 龍二は鼻で笑った。こんなひ弱そうなサラリーマン、1分とかからない。そう思って拳を構える。


「いいぜ。死んでも知らねえぞ」


 龍二の拳が飛ぶ。しかし、男は軽やかにそれをかわす。そして、流れるような動きで龍二の腹に拳を叩き込んだ。


「ぐっ……!」


 龍二の体がくの字に曲がる。そのまま、男は龍二の弱点を見抜き、的確な一撃を加えていく。龍二は為す術なく、ボロボロにされていく。1分後、地面に倒れ伏しているのは、龍二の方だった。


 男は龍二を見下ろし、言った。


「きみは、ただ強いだけだ。その拳に、意志も、哲学もない」


 そして、名刺を差し出した。


「もし、また戦いたくなったら、ここに来なさい。きみの拳に、本当の意志を見出したくなったら、だ」


 龍二は、ただ男の背中を見つめるしかなかった。


 武神尊に滅多打ちにされた龍二は、屈辱に燃えていた。街を歩いていると、たまたま通りかかった不良集団に八つ当たりし、大乱闘騒ぎを起こして警察に捕まる。


 留置場で悔しさを噛み締めていた龍二のところに、弁護人が面会に来る。龍二はあの日の名刺の住所を、雇った弁護士に調べさせていたのだ。


「先生、住所はどうでした?」

 龍二は前のめりになって尋ねた。


「ええ、調べてきました。あの住所にあったのは、お寺でしたよ」


「は? お寺?」


 龍二は耳を疑った。嵌められた。あのサラリーマンに、まんまと嵌められたのだ。


「くっそおおおお!

 龍二は叫び、悔し涙を流した。しかし、龍二は諦めなかった。釈放後、あの日の名刺の住所を頼りに、そのお寺を訪ねる。そこは、古いながらも趣のある、静かな寺だった。


 本堂に足を踏み入れると、龍二の目に飛び込んできたのは、一体の毘沙門天像。鋭い眼差しで、こちらを睨みつけている。


 その威圧感に、龍二は息を飲む。像の横には、由緒書きが置かれていた。


「鎌倉時代頃に、武神尊という謎の人物がお寺に寄贈した……」

 由緒書きの文字を読んだ瞬間、龍二の頭に稲妻が走った。


 あの時のサラリーマンは、毘沙門天だったのか……?


 その時、龍二の後ろから、厳しい声が聞こえた。


「若造、そんなに人を睨みつける目をするもんじゃない」

 振り返ると、そこには厳しい表情の老人が立っていた。


「あんた、なんなんだよ」

 龍二は毒づく。老人は、龍二の体格と、鋭い目つきをじっと見つめ、言った。


「ボクシングをやらないか? お前さんのその目は、天性の才能だ」


 老人は、このお寺の近くでボクシングジムの会長をやっているという。龍二は半信半疑ながらも、老人の言葉に従い、ボクシングジムの門を叩く。


 龍二はボクシングにのめり込んだ。ジムでの練習は厳しかったが、龍二は持ち前の根性と才能で、メキメキと頭角を現していく。あの日の屈辱をバネに、龍二はひたすら拳を磨き続けた。


 そして、数年後。龍二は遂に、世界チャンピオンの座を手にする。


「チャンピオン、今のお気持ちは?」


 インタビューで、龍二はマイクを握り、静かに話し始めた。


「俺は、昔はただのゴロツキでした。何も考えずに、ただ拳を振るっていた」

 龍二の言葉に、会場は静まり返る。


「でも、ある人に、お寺を紹介されて……。そこで、毘沙門天様と、今の会長に出会って、俺の人生は変わりました。拳に、意志を持つことを教えられました」


 龍二は、はっきりと、お寺の毘沙門天に感謝を伝えた。その日以来、龍二は背中に毘沙門天の詩集を入れた特製のガウンを着てリングインするのが名物となった。


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