「いき」とは何か
九鬼周造の著書『「いき」の構造』を読んだ方はおられますか?
本書の中で「いき」は「媚態」を頂点とした「意気」と「諦め」の三要素の関係性によって生まれるとされ、日本の民族固有の美意識として語られています。
「媚態」とは色恋の駆け引きにおける美意識のことで、昔は色恋沙汰のことを「粋な話」と表現していたそうです。つまりは成就するか否かの瀬戸際における緊張関係が継続している状態を「媚態」と捉え、束縛されない自由な生き方を希求する様。
「意気」は武士道における張り切りや勇ましさ、易々と相手の思い通りにはならない誇り。恋愛においては成就に向けて行動しつつも、相手を突き放すような性質。
「諦め」は仏教的諦念で、執着から脱却し運命を受け入れる心。人生はうまくいかないことばかりであるという達観。
つまり「媚態」の理想は不成就であり、「意気」と「諦め」の精神により、純化され濃密度が増すという関係性を『「いき」の構造』と解釈するようです。
本自主企画では様々な「人間関係」へと視野を広げた「いき」をテーマとした文学作品を募集します。加えて従来の「恋愛」ジャンルをあえて除外します。あまり書かれていない視点を掘り起こしてほしいのです。
円滑で平和的なコミュニケーションのためにペルソナを被ることを要求される人間社会はいわば仮面舞踏会で、「世の中チョロい」と軽やかに渡る者もいれば、そういうものだと達観する者、違和感や嫌悪感に堪えながら生きる者もあるでしょう。
そんな中で生身の人と人のコミュニケーションは少しずつ薄れ、代わりに都合の良い話し相手、或いは相棒としてAIが台頭しつつある。そんな今の世だからこそ、あらためて人間同士の関係に潜む「いき」を面白がりたいのです。
人間の悩みは人間関係の悩みだと言われるように、人と人との間柄は複雑怪奇で正解が存在しません。だからこそ現代社会の其処此処に、これまでの人間の歴史の至る所に、そして未来永劫人間が居るところには絶えることなく『「いき」の構造』が構築されるように思われます。
それを解像度を上げて浮き彫りにし、物語として表現していただきたい。
良い関係を築こうと行動しても叶わぬ時の諦めの潔さと執着からの脱却、うまくゆかぬからこそ人間関係は豊かで面白い。うまくいっているようでも何かが欠けている、そんな関係性の妙、息苦しさの根源、あるいは現象を浮き彫りにし、時には反面教師となり得るような作品がカクヨムに増えてくれると嬉しいです。
妥協することなく表現の自由を追い求め、エンタメとしてのウケや流行から毅然と距離を取り、理解されないかも知れないという孤独な心細さを抱えつつも、数値評価に固執しない書き手の皆様の参加をお待ちしております。
その作品は誠実な心を内に押し込めて日々を過ごす誰かを救う物語となるやも知れません。
経験や客観的観察に基づいて人間性を分析する作者、一旦抽象化された概念や現象に具体性を付与したストーリー、そしてそれを受け止め思考する読者。
この三者の関係性にも『「いき」の構造』が生まれるのではないだろうか、と想像しています。
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