戦国転生
以織(いおり)
安芸の陽
第1話 降伏
1551年。
「そろそろですな。この家から離れるのは。」
問田五郎隆房は思いを巡らせていた。
問田五郎隆房、現代では陶晴賢と呼ばれるこの男は転生者である。前世は毛利家の研究を長年行ってきた歴史学者であった。転生後、陶興房の長子・興昌の命を救ったことで、変わらず問田姓を名乗っている。
「うむ。潮時だろう。」
隣に座る兄・問田十郎隆盛が大きくうなずいた。
「月山富田城で敗れて左衛門佐(晴持)様を失ってから、殿は能楽や和歌にのめり込んでしまい、政治は相良遠江守(武任)や冷泉判官(隆豊)の成すがままだ。最近では次郎様(興昌)の諫言すら聞かぬ。」
隆盛が苦々しく言った。
「して五郎よ。どこへ向かうつもりだ?三好か?朝倉か?九州の大友か?」
にやりと笑った隆房は言った。
「毛利です。」
「な、なんだと!確かにわれらは殿と毛利との取次役を務めてきたが、あの男が我々を信用するか?謀殺される可能性もあるぞ!」
「心配ないです兄上。すでに話はつけました。後の周防侵攻にて大内家有力家臣の調略を担当することで私と兄上の一族郎党を受け入れるとのこと。起請文もあります。」
隆房は懐から紙を出し、隆盛に渡した。
「おお、まさしく元就の字。さらに周防侵攻が成就した暁には、富田若山を安堵すると書いておる。」
「ええ。1週間後、一族郎党をまとめて発ちましょう。」
1週間後。周防・大内館。
「殿!大変なことが!」
相良武任が大慌てでやってきたので、大内義隆は眉をひそめた。
「なんじゃ騒々しい。わしはこれから連歌会じゃぞ。」
「それどころではありません!!!問田尾張守隆房、並びにその兄・問田備中守隆盛、一族郎党を連れ出奔!」
「.................は?」
「なお尾張守らは毛利に投じたとのことです!」
「な、な、な、なんじゃと!」
安芸・吉田郡山城。
「よく来てくださった。問田尾張守、そして備中守殿。儂が毛利元就じゃ。」
長身で筋肉質。顔には立派な髭をたくわえた男・毛利元就が言った。
「問田五郎隆房にござる。降伏を受け入れていただき感謝いたします。全力でお仕えいたします。」
「いやいや。尾張守殿の高名は知れ渡っておる。また、戦の時にもいろいろと世話になった。わが家臣として、これからの周防侵攻の際、頼みますぞ。」
「ははっ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます